第1章 救出
「ハァ…ハァ……」
雲でできた地上に繋がる長い階段を金色のたわわな髪の毛を乱しながら険しい表情で足早に下る女神が1人。
「急がなくては…!」
彼女は春の女神ペルセポネ。
ギリシャ神話に登場する本物の女神である。
なぜ彼女が急いでいるのかというと、遡ること数分前―――。
「はぁ…おかしいですわお母様…」
いつも明るくニコニコしているペルセポネが、珍しくしょんぼりため息をついている。
「どうしたの?」
「ハデス様からお手紙が来ませんの…お忙しい時でも一週間に1通はくださるのに……」
前に来た手紙から数えて一週間を過ぎようとしている。ちなみに最高記録は1日に3通、6日間連続だ。
ハデスの使い魔(コウモリ)を使って50年前からほとんど毎日文通しているのだ。
「忘れているのでしょう?きっと仕事が忙しすぎて…」
「そんなことありません!!!!」
急に話を遮り声を荒げる娘に驚くデメテル。宝石のようなマゼンタ色の目が鋭い光を放って母親に向けられる。
「ハデス様はお忙しい時でも一週間を過ぎる10〜15分前には必ずくださいます!片時も遅れたことはありません!!!」
一週間を過ぎるまで、もう5分もない。
うっすら涙を浮かべ握った拳をぷるぷると震わせる。その涙はやがて、ボロボロと頬を伝い流れ落ちてゆく。
「……うっ、、うわぁ〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!ハデス様ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
その場に蹲りわんわん泣き出すペルセポネ。
1年の内、2分の1しか冥界にいられない彼女は春と夏の間の殆どハデスに会えないのだ。あまりにも可哀想に思ったデメテルはゼウスに掛け合い、今回だけ冥界に行かせることを許した。
ヘラクレスの件もあったが、普段は至って真面目に仕事をこなしておりペルセポネとの関係も認めているため許したのだった。ゼウスが直接ペルセポネに伝え、今に至るのである。