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【名探偵コナン】幸せを願う

第4章 暗転と覚醒


降谷零という男の言葉を、情報を漏らさぬように此方を見つめる男に、表に出ていた安室透が鳴りを潜める。
警察官でも、探偵でもない…一人の女を思うただの男として発した言葉に修平の眉が動く。

「姉さんが拒絶したら?」
「…僕が納得できる理由があるなら潔く諦めるよ」
「…勝手な男ね」

今まで静かに二人の会話を聞いていた灰原がぽつりと零した。隣で目を剥くコナンを気にも留めずその瞳は降谷を睨んでいた。

今回のことで灰原哀が降谷零を敵視していたことは知っていた。彼女が南海を姉のように慕っていたことも、それを南海自身がとても嬉しく思っていたことも。
だからこそ降谷は灰原からの厳しい視線も、言葉も受け入れるつもりでいた。

「納得なんてする気もないくせに…」
「…灰原」
「いつだって尊重されるのはあなただもの。南海さんなら押し切ればいけるとでも思ってるんでしょ?今までみたいに…」

別れてくれ、忘れてくれ、誰かと幸せになってくれ。
その全てを受け入れ、自分を殺しながらも笑みを浮かべていた南海を思い出す。

全てを知っているような口ぶりの少女が気に入らないとばかりに逸らした瞳は、降谷が先生と慕っていた彼女の母親と同じ赤みがかった茶色の前髪に隠された。

「彼女の気持ちを抑えつけることはしないと誓うよ。本気で嫌がるなら必ず手を引く。だけど、僅かでも可能性があったなら…それに縋ることを許してくれないか」

片膝をつき、灰原と修平の二人を視界に入れる。真っ直ぐに見つめる焦げ茶と隠された緑に届くように思いを乗せた言葉は静かな室内に霧散した。


どれ程の時間が経っただろうか。

はあ、と溜息のような息が修平から漏れた。諦念を含んだようなそれは近くで懊悩としていた少女にも感染していく。
同じように息を吐いた灰原が軽く頭を抱えて唸り始めた。あー、うーと続く声に見かねたコナンが口を挟んだ。

「灰原もわかってんだよな、何が南海さんにとっての幸せか。でも、心が追いつかねえんだろ?」
「…」
「俺は、お前とは少し事情が違ぇから完全な理解は出来ねえけどよ…”姉さん”の幸せ願えるのも”妹”の特権だろ?」
「なっ!あ、あなたね!修平さんがいるのよ!?い、妹とか言わないでくれる!?」





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