第4章 暗転と覚醒
驚きで顔を上げ、緩く首を振る降谷を見つめるコナンの目が見開かれた。どうして、と動く唇が閉じ終わる前に降谷の体は修平に向き合っていた。
「今までのことも、今回の事故も僕の責任です。すみませんでした」
腰を折った降谷の髪が重力に従って流れる。濡れる焦げ茶の瞳がその姿を捉え、揺らぎ、そして逸らされた。
「…忘れたくて忘れたんじゃないんですよね?」
「はい」
「…なら、あなたが悪いわけじゃない。…姉さんの周りは誰も悪くない」
暗に警察上層部が悪いと告げる修平に灰原の握られた手から力が抜けた。それを目に留めた修平の瞳がコナンに向けられる。向けられた本人は納得には至らぬようで渋々ではあったが小さく首を上下に振り、漸く力を抜いた。
片手で顔を覆う修平は何度か大きく息を吐いたあと立ち上がった。お見苦しいところを…と頭を下げる姿に首を振ると、焦げ茶が蒼を射抜いた。
「姉を助けてくださりありがとうございました。ですが、いつまでも元恋人の傍にいると知れば婚約者の女性もいい気はしないでしょう。後は任せてください」
じっと見つめる、いや睨みつけるといっても過言ではない離れない瞳からその感情を読み取ることなど、何度も戦地を潜り抜けた男には造作もないことだった。
「婚約は解消する。僕にはそれが出来るだけのカードもある」
「…」
「散々傷つけておいて何を勝手なことをと思うかもしれないが、…僕は南海の隣にいたい。これから先もずっと」
修平は自分に最後のチャンスを与えようとしている。そして同時に見定めようとしている。
唯一の肉親が自身の不幸を甘受してでも守ろうとした男。どんな人間か、姉をどう思っているのか。降谷の隣に南海の幸せがあるのかを確かめようとしている。
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