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裏『探偵』αな女がΩの男達に求愛される話。

第14章 運命の番(過去編)1.5


春枝の使用人達が、俺達へ薬を飲んで貰うよう伝えて支えながら運び車へと乗せる。まだ見てねぇ場所がある、春枝だってそう思っているだろう…だが、彼女は車に乗り込むと小さな声で、水族館を名残惜しそうに見つめて自嘲し「出して頂戴」と呟いた。揺られていると、徐々に落ち着きを取り戻して良いのかと尋ねた。窓の外を見つめていた春枝はピクリと反応してゆっくりと口を開く。

「私、駄目なんですよね…感情が昂ると、α性をコントロール出来なくなるみたいで。教えてくれた先生にいつも言われていました」
「そうか…」
「父は濃いα性でいつも多忙な人。桜花グループを束ねる社長ですから一緒にどこかへ出掛けることは先ずないんです。過保護ではありますが…逆を言えば私に対する罪滅ぼしのようなもの。私だって最初は一緒に遊びたいと伝えていましたが、父は私を少し見下ろして申し訳なさげに頭を撫でるんです。そんな後ろ姿ばかり見ていましたから…私もわがままを言えなくなりました。母は濃いΩ性で、ヒートが人よりも強いんです…元々元気に振る舞っていても体の弱い人ですし、いつヒートになるか分からないから…どこかへ遊びに行くこともありません。私の隣にはいついかなる時も爺やや使用人の方しかいませんから…家族で遊びに行くなんてこと未だにないんですよ」

可笑しな話しでしょう?そう健気に笑って見せた春枝にじんと胸が痛む。あぁそうか…他人の家族を羨ましげに見ていた横顔がどこか寂しげだったのは、そういう意味があったのか。春枝はきっと両親に自分の姿を見て欲しくて、勉学や音楽、演舞などに励んだのだろう。ただ褒められたい。その一心で。だから今日、ごくごく普通の水族館を俺達と来たのか。当たり前なその光景を憧れるただの少女として…思い出を作りに来たのか。

考えれば考える程に、愛しさや切なさが溢れる。世間はΩを可哀想だとか、保護して差別のない世の中にしなければいけないなどのニュースを良く見掛けるが…α性だからこそ、傷付いても言い出せない苦しみがあるのだ。

「逃げねぇよ」
「えっ…」
「お前、まさかとは思うがこれ以上一緒にいたら俺達がヒートになりっぱなしで不幸になるとか考えてんじゃねぇだろうな?」
「お、おい…松田」
「俺達は番候補だ!アンタがいないと生きていけねぇ…それくらい分かれよっ」
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