第20章 運命の番(過去編)3.5
春枝から伝えられる言葉には嘘偽りはなかった。見合いというのは建前であり、商談などをする為に彼女を会わせるようだ。春枝の話しを聞けば、相手は女性のαであり、番になる心配はなさそうである。ただ少しばかり気になるのが、春枝はその女の話しをしている時とても表情は穏やかで愛しい人を想うような笑みを零すのだ。それに少し嫉妬してしまったがなんとか心に留めた。
「αの女…」
「孕めませんし、孕ませることも無理です」
「そ、そうか…」
「落ち着きました?」
落ち着きを取り戻し、春枝はほっと息を撫で下ろしながら温くなった珈琲へ口を付けていた。正直に言えば今日は彼女の家へと泊まるつもりがあったのだが、酷く忙しそうだからということでお開きになった。
ーーー。
「ごめんなさい…色々と立て込んでいて、通話を切ってしまって。ベルに宜しくと伝えておいてくれますか?」
「畏まりました…」
「お嬢様、宜しかったのですか?」
「仕方ないわよ。明日は朝からバタバタになりそうだし…まぁ番である皆さんを追い出すような形になってしまったこと残念だけど。それよりもコンシェルジュであるメイド長や爺やに申し訳ないわ…本当にいつもごめんなさい」
春枝は電話をかけ直した、相手の“爺や”は普段表情を変えないが少しばかり目を細めて会話に耳を傾ける。リビングに控えるのはコンシェルジュである“メイド長”は、うっそりと口角を上げて軽く会釈をした。
「お気になさらないで下さい…私たちは貴女様の部下であり、貴女様の手足でもありますので…」
「えぇ、ですのでなんなりとご命令を…」
「いやいや…私としては未だに慣れてないんだけど」
「全く。貴女様は昔から変わりませんね…まるで野良犬や野良猫を拾って来るように、何も持たない私たちへ簡単に手を差し伸べてくれる」
電話越しに“爺や”はメガネを外してマスクを外す。50代、60代には見えず厳つい筋肉質な男性がいる、金髪に特徴的な眉がつり上がりニタリと不適切に笑った。“メイド長”も黒髪のカツラを取り、カラーコンタクトを外す。サラリと風に靡く銀髪のロングヘアーとオッドアイの(左目が青、右目は虹彩と強膜(白目の部分)が同じ色で透明に見える)瞳が特徴的な美女が佇んでいる。
「宜しくね…爺や、メイド長。いいえ…アイリッシュ。キュラソー」