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わたしは黄桃

第2章 の



「あそこのパン屋、ボクも好きです。えっと、あのホラあれ…そうそう、ほうれん草チーズとか。いいですよね」

あれから10分。スーパーのフードコートで、私は男の人とお茶を飲んでいた。

彼は袋井さんと言うらしい。
袋井さんは話し上手という訳ではなかったけれど、彼の持つ穏やかな雰囲気と、私への気遣いが心地よくて、つい話し込んでしまった。

「あと、ボクも黄色い桃の缶詰、好きです」

袋井さんはフニャっと目尻を下げながら笑った。

「いつも買ってますよね?よっぽど好きなんですね」
「そんなことまでご存知だったんですか…」
「あっごめんなさい、気持ち悪いですよね、こういうの。あの、でも、ホントストーカーとかじゃないので。その…ただボクは、あなたのこと…」

ゴニョゴニョと口ごもる袋井さん。
気まずそうに頭をかき、耳まで赤くして目をせわしなく動かす姿が、まあ本当に可愛らしい。

「ありがとうございます…ちょっと嬉しいです。黄桃好きって人に会えて」
「えっあっ、ハイ。ぼ、ボクもよかったですあなたに会えて!」
「はい?」
「あっ、あっイヤ、違います、そういう意味じゃなくてあの…ホラ黄桃仲間ですから、よかったですねすごく会えて…アハハ…」


ふふ、可愛いなあ本当に。
私は少しため息をついて、次の言葉を発した。

「私この間主人に、黄桃なんて子どもっぽいって言われて、ちょっとヘコんでたんです」

袋井さんは目を大きく広げた。


「旦那さん…いらっしゃるんですか…」

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