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わたしは黄桃

第2章 の



袋井さんの顔の上に寂しげな色が広がっていく。
うん、そう。ごめんなさいね。

彼が私に好意を寄せていることは何となく気づいてしまったから。それとなく夫がいることを宣言させてもらった。

だって仕方ないじゃない。
あの人が私の夫なんだもの。


「そう〜…ですか。うん、桃浜さん美人だから、当然ですよね」
「そんな、美人だなんて」
「いや、綺麗ですよ、本当に。いいなあ、きっと旦那さんも素敵な人なんですね」
「そんなこと…。まあ、顔はいい方だと思うんです、昔からモテるから。でも毒舌っていうか…何でも口に出して言うものだから、結構疲れちゃいます。黄桃のこともそうなんですけど。いえ、食べ物の趣味になにか言われたくらいでヘコむ私のほうが馬鹿なのはわかってるんですけど」

こうして口に出してみると、私やっぱりあの人に少し疲れているのかもしれない。

あの人はいつも私のやることにケチをつける。そんなやり方じゃダメだ。もっと上手くできるだろ。何やってるんだ。エトセトラエトセトラ。

知らず知らずのうちに眉根にしわが寄り、目線が沈む。
そんな私を見て、袋井さんはこう言った。

「そんなことないですよ」
「えっ」

なに?何がそんなことないって?

私は伏せていた顔を上げて袋井さんを見つめた。

「自分の好きなものを否定されたらヘコむのは当たり前…だとボクは思います。桃浜さんが悪い訳じゃないですよ。ボクなら…自分の奥さんの好きな物は、一緒に楽しみたいなと思います」

そう言って、袋井さんは柔らかく笑った。
なんだろう。
あたたかい人だ。
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