第2章 中編 古代都市シャンドラ
「…あら?この小鳥は?」
エミリアがシャンクスの首に手を回そうとした時、肩に乗っている小鳥の存在に気づいた。
ジッとこちらを見つめる小鳥。
その場から離れる気配のない鳥に、エミリアの表情は次第に険しくなっていく。
そして、邪魔とばかりに手で払いのけた。
「おいっ…!」
彼女の手を避けて舞い上がった小鳥。
シャンクスが慌ててエミリアを咎めてユーリを呼んだが、彼女はそのままどこかに飛んで行ってしまった。
「どうしたの?そんなに慌てて」
エミリアはそんなシャンクスに怪訝な表情をするが、彼は鳥が飛んでいった方向を唖然と見ていた。
エミリアが話しかけてもどこか上の空の彼。
折角わざわざ遠くから会いに来たのに、この状況は非常に面白くなった。
もうすぐ挙式も上げるのに、彼は一体どうしたというのか。
今まで見たことのない表情のシャンクスに、エミリアの心は不安がよぎる。
何時も優しく紳士的で、エミリアのことを一番に考えてくれていた彼。
そんな彼が初めて見せた、怒りに近い感情。
たったそれだけだが、彼女を動揺させるには十分だった。
小鳥の詳細を聞いてみるが、あまり詳しくは教えてくれなかった。
……なんなのよ、鳥の分際で。シャンクスに懐いてるんじゃないわよ
エミリアは思わず舌打ちすると、笑顔を顔に張り付けてシャンクスに違う話題を提供する。
相変わらず上の空だが、少しでもあの鳥の存在を忘れて欲しかった。
そんな彼女の思惑を知ってるのか知らないのか、彼は重い足取りでエミリアと共にその場を後にする。
優しくて紳士的。
それはこの国に住んでいる全ての人間が知っていることだ。
温厚な彼は多くの人から慕われている。
だけどそれは、彼が表向けに見せる一面でしかない。
残虐な性格の国王になど、誰も付いてこないだろう。
勿論、彼が残虐な性格というわけではない。
ただ、エミリアは分かっていなかった。
彼も一人の人間だということを。
欲を持っていれば、嫉妬や執着心もある。
ただそれが、彼女に向けられていないだけだ。