第1章 前編 赤髪の皇帝 白髪の少女
「10年間、おまえに関する情報が一切なかったが、どうやって過ごしていたんだ?」
ユーリの脳内が混乱を極めていると、普通に始まった雑談。
彼の言葉に一瞬キョトンとしたユーリだが、ピリピリする空気に息が詰まりそうだった。
どう見ても、普通の雑談をする雰囲気ではない。
いや、海楼石をつけられてる時点で普通ではないのだが。
「あーうん。ちょっと特訓をしてまして」
「特訓?何のために?」
「え?うーん強くなるために?」
「…へぇ。…で、何のためだよ」
段々棘のある言い方に変わり、ユーリの表情も次第に引きつってくる。
理由を聞かれても、あなたの為なのですが。
思わず喉元まで出かかったその言葉を何とか飲み込む。
それを言って空白の10年間を聞かれても困るからだ。
一瞬で飛びましたとは言えないし、信じてもらえないだろう。
「って、私はあなたの腕を治しにきたんですが。これはどういうことですか?」
ふと物思いに耽っていたユーリだが、本来の目的を思い出した。
手につけられた海楼石をシャンクスに突き出し、外すように促す。
「だから、そう簡単に治されても困るんだよ」
「は?どうして?」
「俺の腕は高いからなぁ。ましてや利き腕なら尚更」
笑みを浮かべて、どこか冗談のようにシャンクスは言った。
その言葉に一瞬キョトンするユーリ。
だから、それを治すために今まで頑張って来たのだが。
返答に困り暫く考え込んでいたユーリだが、ある可能性に辿り着いた。
「もしかして、治すだけでは足りないと?」
なんてことだ。人情溢れ温厚な筈の彼が、まさかここまでお怒りとは。
…あれ?でも怒ってないんだよな?
…駄目だ、意味がわからなくなってきた。
「まぁそう言うことだ。話が早くて助かる」
ユーリが悶々と考え込んでいると、いつのまにか目の前に来ていたシャンクス。
そして肩を掴まれたと思うと、そのままベットに引き倒された。