第1章 前編 赤髪の皇帝 白髪の少女
ユーリがマリンフォードに足を踏み入れてそう時間が経たない内に、シャンクスは彼女の存在に気づいた。
最初はその事実に珍しく動揺したが、どういうわけだかこちらへ向かってくるその気配。
懐かしいその気配を、間違えるはずもなかった。
シャンクスは焦る気持ちを何とか抑え、時が来るのを待った。
この10年間、どんな方法を使っても見つからなかった彼女。
脳内には彼女の死が浮かんだが、それでも諦めることができなかった。
ルフィの様に手配書でも回ってきてくれれば、もう少し穏やかに過ごせただろうに。
シャンクスのユーリに対する執着心は、薄れるどころか、時が経つにつれて悪化していた。
だがそれを知る者は、一部の仲間のみである。
ベンはまさかシャンクスが本気で10年に渡り、ユーリを探し続けるとは思ってなかった。
航海に支障はなかったが、その執着心には軽く恐怖すら覚える。
一体何が彼をここまで動かしているのか。
いっそのこと、彼女の遺体でも見つかればよかったのだが。
ベンは、ユーリを抱えて戻って来たシャンクスに、思わずふかしていたタバコを落としそうになった。
正直、彼女がこの場にいるなど思いもしてなかった。
一体どういった経緯で彼女を捕まえたのかは分からないが、面倒なことになったのは間違いないだろう。
あれから10年。
その姿は子供から大人に変わっており、一瞬誰だか分からなかった
だがそれも、あの髪色とシャンクスの表情を見て直ぐに思い出したのだ。
何故気を失っているのか。何故彼女がこの場にいるのか。
聞きたいことは山のようにあったが、取り合えず今はこの場を離れるのが先だ。
亡くなった二人の弔いもしなければならない。
ベンはタバコを揉み消すと、取り合えず見つかって良かったなと言って、船を出港させる準備に行った。
完全に他人事でユーリに申し訳ないが、あぁなった彼を止めれる人物はこの船にいない。
ベンは船長室へと消えていった2人を見て、そっとため息を吐いたのだった。