第1章 前編 赤髪の皇帝 白髪の少女
マキノは朝になると、何時ものようにユーリの様子見に行った。
だけど彼女が眠っていたはずのベットには、誰もいなかった。
残っていたのは、幼いながらに綺麗な字で書かれた手紙のみ。
ーーー色々とお世話になって、何も言わずにいなくなって申し訳ありません。どうしても急用ができましたので、私はここを出て行くことにしました。何時か恩返しをしに戻ってきます。
本当にありがとうございました。
とても子供が書くとは思えない文章。
だけど、彼女がここにいないことが全てを物語っていた。
もしかしたらまた誘拐されたかとも思ったが、ユーリの気配は確かに明け方まで感じることが出来た。
それがたったの数時間で消えただと?
シャンクスは見聞色を使って、島全体を探った。
だけど、どれだけ探しても、彼女を見つけることができなかった。
この海に囲まれた島で、消えた彼女。
それはまるで神隠しにでもあったのように。
手に込められた力で、手紙に少しシワが入る。
そんな彼の様子をマキノは心配そうに見ていたが、シャンクスは挨拶もそこそこに、どこか上の空でその場を後にした。
港に向かえば、ルフィと仲間達が待っていた。
ユーリがいないことを不思議に思ったクルーもいたが、シャンクスのただならぬ気配に気押され、誰も聞けずにいた。
そんな中で、ベンだけが安堵のため息を漏らす。
事情はどうであれ、ユーリはここにいない。つまり彼女の安全は保障されたわけだ。
目の前では、シャンクスが麦わら帽子をルフィに預けている姿が映る。
ルフィもシャンクスにとって特別な存在なのは知っている。
だがユーリは……
「…ベン」
ベンが物思いに耽っていると、不意にシャンクスから声を掛けられた。
「ちょっと探したいものがあるから、お前には迷惑をかけるかもしれねェ」
「…先に自己申告するなんて、珍しいな」
「ははっ、正直おれも戸惑っている」
乾いた笑みを張り付ける我らの船長。
だが、その瞳には薄っすらと狂気が見え隠れしていた。