第1章 前編 赤髪の皇帝 白髪の少女
声の主の話を纏めるなら、今の私は所謂トリップ状態らしい。
夢見る乙女なら誰もが望む展開だ。
私だってそうなってみたいと、思ったこともある。
だがな……
「いやいやいや色々伝えるの遅すぎですよ!!お願いします!最初からやり直してください!!」
この世にトリップというものが存在していたとは信じがたいが、悲しいことにユーリの身体は現実に戻る気配はない。
もし仮に、本当にこの世界で生きて行く羽目になるなら、意地でもあの状況を覆していた。
何が悲しくてシャンクスの腕を奪った張本人にならないといけないのか。
そんなの誰も望んでいないし、頼まれてもしない。
あの役目はルフィだからそこ美徳なものであって、何が悲しくて私が今後の人生、あの腕を理由に捕らわれ続けなければならないのか。
頼むから私とルフィの立ち位置を変えてくれ。今すぐに!
ーーー悶々と考え込んでいるところ申し訳ないですが、それは出来ません。
そして人の心を勝手に読んだのか、勝手に答えてくる声の主。
ーーーだけどそれ以外で、あなたの望みを何でも1つだけ叶えてあげます
きっとこれから、険しい道が待っていると思いますから。
ユーリは己の心の声がばれていたことに恥ずかしくてのたうち回っていたが、それも直ぐに聞こえてきた次の言葉で回復した。
自分で言うのも何だが、全く持って現金な奴である。
「それならば、私を今すぐ元の世界に戻してください!」
ーーーだからそれは無理です。あなたは選ばれたんですから。
「選ばれたって何ですか!?勝手に抽選しないでください!さぁ私を今すぐ戻すんだ!」
ーーーそうですか、特に望みは何もないのですね
「すみません嘘です。今考えますのでちょっと待ってください」
ユーリの提案を冷淡に却下していく声の主。
もうユーリは、この現実を受け入れるしかなかった。