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死人に口有り(銀魂:銀時夢)

第1章 死人に口有り


「ったく、クソあちぃー」

「若いくせに文句たれてんじゃないよ、だらしない」

 九月下旬、定期的な墓参りの為にお登勢は銀時を連れて亡き夫が眠る場所へと足を進めていた。お登勢は墓前に飾る菊の花と線香、そしてお供え物の団子を手に持ち、彼女の後ろに続いて歩く銀時は掃除道具を詰めたバケツを持たされている。住んでいる家からそれほど遠くもない所ではあったが、銀時は休日を奪われた上に荷物持ちにされた事を不満に思っていた。それを素直に口にすればお登勢からの雷が落ちるのが分かっていた為、わざと暑い苦しい天気に悪態をついたのだが、それもバッサリと切り捨てられてしまう。

 季節は冬に向かい、肌寒い日が続いていた中、墓参りに向かった今日は何故か夏に逆戻りしたかのような蒸し暑さだった。真夏と比べれば数は減ったものの、蝉の鳴き声もまだ町中に響いている。季節外れな猛暑は墓場をダラダラと歩く銀時を苛立たせた。

 しばらくして「寺田家之墓」と刻まれた墓石にやっと辿り着けば、銀時はバケツを地面に下ろしながら溜め息をつく。それは重い荷物から解放された喜びの溜め息ではなく、既に掃除されていた墓を目にして感じた落胆からだった。おそらく誰か他にも、お登勢の亡き夫である寺田辰五郎に会いに来たのだろう。生えているだろうと思っていた雑草は見当たらず、数日前に萎れ始めたような花が花瓶に飾られていた。お登勢もそれを見て「おやまあ」と零し、お役御免になってしまった銀時に軽く謝る。もう一言だけ悪態をつこうか迷いはしたが、余計な掃除をしなくて済んだのも事実なので無駄口は叩くまい、と銀時は口を噤んだ。

 お登勢に線香を立たせてやれば、後は家に帰ってダラダラ出来る。いかにもダメ人間が考えそうな事を思いながら、銀時は手際よくお供え物と線香の用意をしているお登勢を待つ。そうしてボーッと突っ立てれば、どこからか明るい歌声が聞こえて来た。
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