第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
男は凍らされていない左腕を使って、銃口を上に向けて2発撃った。
バンッバァッン!
すると、路地裏のいくつもの窓が開き、中から大人数がこっちに向かってとんできた。
漁に使う網のようなものや、凶器にも使えそうな日常的に使用する刃物など持っている人間がいくつも。
しかし由来はその場で静かに立っていた。
雲一つないきれいな青空に降ってくるお天気雨を眺めるように、全く動かなかった。
逆に動けば、“的”がズレるから。
スウゥンッ…
彼女を軸に薄い冷気の層が広がった…
この時、彼女が頭に思い描いたのは目の前の光景ではなかった…
放課後の薄暗い夕方。
女子中高生の何人かが下校していた。
最近、女性を狙った通り魔が横行しているとのことで、彼女らが通っている学校側は生徒になるべく集団で下校するように指導していた。
テレビニュースにも取り上げられるほどの奇妙な事件が何件も発生していた。
「はぁー、正直高校に上がって少し環境は変わったけど、何か実感沸かないわ」
「うちの学校は中高一貫ですから、友達の面子も変わりませんし」
「あー、今日の席替えまた嫌な奴と隣だわ! あんな奴が近くにいたら馬鹿が移るわ! 素敵な出会いを求めていたのに…」
「うちは女子校だからそんなのないやい。まさかアンタそっち系?」
「うん。そうなんだ…な~んてねッ!」
「そんなに飢えてんだったら、隣町の共学校にでも求めたら? 超かっこいい男子がいるって」
女子校生たちは全くマイペースな会話をしていた。
その中で、ずっと黙ったままで隅で皆と歩いている子がいた。
眼鏡をかけて髪はおさげで見た目は少し地味め。いかにも集団行動に苦手意識を感じていた。
「そういえばそうです先輩! 先日のコンクール、お見事でした!」
中学の後輩は憧れの先輩を前に、目をキラキラさせた。
それに続いて他の子たちも賞賛の声をあげた。
「また最優秀賞なんてスゴいね。さすがって感じだわ」
「まさに我が校の誇りだよ。表彰台に上がったのもこれで何回目だろうね!」
何人にも声をかけられ、誰の返事をすればいいのかと戸惑う。
照れくさくなり顔を赤くした。
取りあえず、皆に向けて「ありがとう」と言った。
「ねえ! 良かったら、皆でご飯食べに行かない? 色々聞きたいし!兎神ちゃん」