第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
中でもとても明るい性格の子が、女子高生らしく帰りにどっか寄ってご飯でも食べようと提案した。
「うぇ? ちょちょちょ。だ、大丈夫なの? 一応ここらへん、警戒区域だよぉ?」
「“ここらへん”じゃなきゃいいんでしょ? 駅前とかなら明るいし人もいるから大丈夫よ」
「そう…ね。いいかもね!」
次々に賛成する者が出てきた。
「兎神ちゃんはどうかしら? 門限とかある?」
聞かれた彼女は少し考えた。
“行っても…いいのかな?”
断って帰ったとしても、家には誰もいない
その門限を決める人も…
シャランッ…
!
何か妙な音が聞こえ、条件反射で後ろを振り向いた。
「どうかしたんですか?」
「学校に忘れ物ぉ?」
後輩や周りの人には聞こえていない? 聞き間違え?
シャランッ…!
”まただ!“
こんな聴覚を刺激するような甲高い音、普通聞こえないわけない
周りには聞こえず、
・・・・
自分だけが聞こえる音
まさか…
“ごめん。忘れ物したかもしれないから、先に行っててくれない?”
「え。独りじゃ危ないですよ。明日にすればいいんじゃあないですか?」
今の状況をよく理解している後輩が心配してくれたが、何とかテキトーな言い訳を作った。
「そう…分かったわ。学校ならまだ先生や他の生徒もいるからね。じゃあご飯会はまた今度にしましょう。バイバイ」
お互いサヨナラの手を振って、一般人のみんなと別れてその場を後にした。
今、身の毛がよだつような、嫌な予感がする…
追わないほうがいいと、何となく分かっている
自分から危険を冒しに行くなんて、バカなことも…
けど、ここで逃げたら…あとで後悔するのも分かっている
さっき誘ってくれたことで、今でも嬉しく思い笑みを浮かべた。
“ごめんなさい…でも、また誘ってほしいかな…”
コッコッコッ
小走りで妙な甲高い音を辿った。
革靴ローファーの足音はリズムを奏でているみたい。
(このあたりのはず…)
もう辺りはすっかり暗くなってるせいで、目視しようにも見づらい。
音を頼りにたどり着いたのは、さらに暗い路地裏だった。