第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
(ここだね…)
由来はとある裏路地に着いた。
この時代はスマホやgoogleマップなどないため、たどり着くには少し時間がかかったが。
(住所は…ここで間違いない)
暑い日差しをほとんど感じられないほど薄暗いところだ
予定より少し早く着いたから、しばらく待とう
「花京院くんはアンたちとこのままここに向かうのかな。いや、誰にも言うなって念押ししたくらいだから1人で来るのか」
よく見たらここ。あの時の場所に似ているな
帰り道に偶然、出くわしてしまった…
由来は薄暗いな路地裏の上にある、明るく真っ青な空を見上げた。
「やっぱり…」
「ちょっとそこの君!何をしている?」
突如現れた警官の格好をしている男2人が、こちらに向かってきた。
「……」
「迷子ですか?あ、失礼ですが念のため身分証を見せて頂けますか?」
もう一方の男も話しかけてきた。
腰には拳銃があり、無駄に抵抗すれば身柄を拘束されるかもしれない
今現在シンガポール警察署にいるポルナレフさんと合流するはめになるかもしれない
「こんな場所を捜査なんて。近くで傷害事件でもあって、不審者の私を事情聴取ですか?」
「いいえ。事件などありません。まして君を疑ってるわけも。シンガポールは罰則が厳しいので、観光客相手でもどんな些細な異変に、常に目を配らないといけないんです。ただの安全確認です」
「…分かりました」
由来はポケットから生徒手帳を取り出した。
「ご協力感謝します。お嬢さん」
警官はニッコリ笑顔で手を伸ばした。
しかし、受け取る直前で腕をピタリと止めた。
「ん? どうした?」
もう1人の警官が心配したが応答がない。
「チッ。何してんだ? 早くしねえと時間が…」
「な、何なんだよこの腕ェ…」
ヒエェ~
警官の腕は肩にかけて石のように固まり、指一本も動かせなくなった。
「お、俺の腕が…凍ってらあああああッ!」
パキッ…カチコチッ!
冷凍マグロのようにみるみる冷たくなる感覚に悲鳴を上げた。
「な!貴様の仕業か?!何のつもりだ!」
一方の警官は異常さに気付き拳銃を抜いて、由来に向けて発砲した。
ダァンッ!
「それはこっちのセリフですよ」
しかし同時に、後ろから由来が声をかけた。
ゴゴゴゴゴゴ