第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
(あの花京院くんが? 機嫌がいいのかよくしゃべる。
しかも1人でここに来るくらいだから、よほど大事な用なのか?)
由来にはそれが不気味に思えたが、とりあえず話を合わせることにした。
「…私も寝ぼけて湯船を凍らせるのは日常茶飯事だよ」
「ハハッ。それは痛そうだな」
実を言うと、由来はボーッとしているとスタンド能力が無意識に作動してしまうことがあった。
日常生活でも、スタンドを持たない友達や一般人に悟られないよう何とか誤魔化す場面もあった。
幼少期は特に、スタンドという概念も理解していなかった時期であり色々苦労もしたらしい。
「でも…花京院くんの母親も、ホリィさんのように優しい人なの?」
悪いことをしたときは叱って、良いことをしたときは優しくしてくれるそんな…
「ん? あ、ああ。スタンド使いじゃないから、僕の言ってることを信じてくれないこともあるけど、優しい人だよ」
「…そう」
時計を見たら、話し始めて5分近く経っていることが分かった。
(人とこれくらい長く話すのは久し振りだな…)
学校の友人でも、長く話すのは得意じゃあないのに
「なら君はどうなんだい?」
「……それで本題を聞きたい。アナタがここに来た理由を聞かせ願う」
雑談だけをしに来るなんて、ポルナレフさんならともかく花京院はそんなことをするガラではないはず。
本当に何しにここに来た?
由来はドアの隙間をさらに小さくした。
「それかアンに用がある?」
「いやいや、アンは今承太郎とロビーにいるんだ。これから僕たちはちょっとした行楽に行くんだ。君もどうだい?」
「……」
つまり、私が寝ている間に彼(承太郎)がアンを連れて行ったというわけか
意外だな。あの人もそんなガラでもなさそうなのに
でもその方がいい。あの人の方が心強いし、アンもその方が嬉しいだろう
「…お誘いは嬉しいけど、気持ちだけ受け取っておくよ。アンにはアナタや彼もついているから私も行く必要性はないと思う」
私は“遊び”には行かない…
由来はドアを閉めようとした。
ガシッ!
しかし花京院は隙間に手を入れて止め、学ランのポケットから何かを取り出した。
それは手紙だった。
「それは…」
「あ、あとで読んでくれ!こ、このことは誰にも言っちゃあダメだぞ」