第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
(やった…!! ジョジョとデートだ…!)
花京院さんと一緒なのは置いといて、初めて一緒にお出かけだ!
アンは由来よりもずっと乙女心を持っていた。
由来はおねむで爆睡している一方、アンは心を躍らせて眠気など全くない。
「じゃあ僕はこの大事な荷物たちを部屋に置いてくるから、君たちはロビーで少し待っててくれないか?」
「分かった」
ここで承太郎は一旦花京院と別れた。
「ああ! ジョジョ待ってよ~。私も行くう!」
アンは駆け足でスタスタ歩いていく承太郎のあとを追いかけた。
何故承太郎はガラにもなく、アンとお出かけすることを選んだのか?
それは彼女(由来)のことを考えての行動だった。
“アンが自分たちと一緒にいれば、由来は気兼ねなく部屋で寝れる”
数分後。1010号室にて。
コンコンッ コンコンッ!
(!)
What?!
ガバッ!
由来は大きいノックの音で目を覚ました。
結構大きかったもんで、不意打ちを食われたようにベッドから起き上がった。
(しまった! 今の時間は…?)
シンガポールは赤道に近いから暑い気候だ。
日没時間も日本とより時間も遅いから、外の明るさだけで時間を判断できない。
日本で慣れているから、ここシンガポールではもう午後4時頃になっているのでは!
しかし時計を見たら、寝落ちしてから数十分後くらいの時間だ。
(ふぅ…よかった)
もしノックの音がなかったら、このまま夕方まで寝ていたかもしれない
今から会いに行くノックの主に礼でも言おうか
敵なら皮肉だが
由来は恐る恐るドアスコープを覗いた。
(意外…!)
そこにいるのは緑の学生服でおなじみの花京院だ。
由来は部屋のドアを半分空けた。
「由来。何回もノックしたけど、何かあったのかい?」
ピクッ
この時由来は、気付かれないくらい少しだけ顔つきを変えた。
「……いや、どうやら寝ていたらしい。アナタがノックしてくれなかったら、貴重な自由時間を無駄にするところだったよ」
「フフッ。君も自分で起きるのは苦手なタイプなのかい? 僕もよく徹夜でテレビゲームをして、その翌日はよく寝坊したよ。今もだけど。そのたびに母親に叱られるのが日常茶飯事さ」