第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
自分たちに会うまで独りぼっちだった彼女。
出会ってからまだ1週間も経ってない間柄だが、そんなこと問題ではない。
ジョセフの父親は彼がまだ赤ん坊の時、かつてDIOが作り出した吸血ゾンビによって殺された。
母親もその災厄で、愛する息子の前から姿を消した。ジョセフを守るために。
ジョセフはDIOとジョースターの因縁により、両親と離れ離れだった。
彼にとって、祖母のエリナとスピードワゴンは家族も同然の存在であったが、
本当の両親と家族3人で食卓を囲って楽しく会話をしたことは一度もなかったのだ。
誰しも、人並みの人生を送るわけではない。
それぞれが何かしらの事情を持ち、それを背負って普通の人間として振る舞う。
それがたとえ、自立するにはまだ早い高校生、子供だろうとも。
彼女の場合、相手を気遣うばかりに自分の本心は簡単には話さないだろう。
本人の意志に無関係で、彼女の心の中を勝手に覗くことは侮辱に等しい行為だとジョセフは考えた。
「彼女は確かに強い。ワシは保護者でも何でもないがとにかく心配なんじゃ。さっきみたいに独りで駆け出したら、何だかソワソワしてのう~。だからよろしく頼む」
そして、今に至る。
承太郎にとって由来は、数日前に偶然出会った同じスタンド使いで。
他の女とは違って、うっとうしくなく大人びて変わっているという印象が強かった。
赤の他人だったにも関わらず、学校に来てまで助けに来た。その上母親を看病してくれた。
そんな彼女をお人好しだと思ってたが、今思えば感謝の方が大きい。
なのにまだ、「ありがとう」と感謝を言ってない…
承太郎は顔には出さないが、そのことで少し猛省していた。
(今度はちゃんと礼言うか…)
1010号室のドアをノックした。
出たのは由来ではなく、同室のアンだった。
「は~い。どなた? ってジョジョ!」
驚きから喜びに変わり、承太郎の学ランの袖を掴んだ。
「どうしたの!もしかして会いに来てくれたの?!」
(うっとうしいガキだ…)
承太郎は大はしゃぎな子供相手にため息がついた。
こういうのは由来が一番適役だ。
部屋の奥を見たが、椅子や鏡台の前に彼女の姿が見えない。
「アイツはいないのか?」
「由来さん?ベッドで寝てるよ」