第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
「いかにも怪しそうだったし、似たような状況は何回かあった。それに…いい人か悪い人かの区別は何となく分かる気がするんだ」
その口振りはまるで「自分は今まで数多くのスタンド使いに会ってきた」と言ってるようだ。
アヴドゥルが言うならまだ分かるが、17歳という若さの彼女には
・・・・・・・・・
少し違和感があった…
その時、何故か傷だらけのポルナレフがようやく来た。
周りの人は時間にルーズさにやれやれと言ったが、由来だけは違った。
「え…ちょっ、どっ!どうしたんですかその傷!?」
女性に心配され少し嬉しかったが、ヘタヘタとその場で座り込んだ。
「つ、疲れた…」
さらに同時刻、2人のホテルの従業員が目を疑うような光景を目にした。
1人はトイレで、男の死体を。
しばらく閉まったままトイレを不審に思って確認したら、そこには先の鋭利な何かによって傷つけられた死体があった。
もう一人は912の部屋で、まるで殺人現場のような有り様を。
鏡は派手に割られて酒と血生臭いにおいが溢れていた。
最も衝撃的だったのが、そこにも死体があった。
服装からしてホテルの従業員だったが、顔面が刃物で剥がされていたため、人物を特定するのに少し時間がかかった。
ポルナレフが言うには、呪いのデーボは運悪く自分の912の部屋に潜んでいたと。
相手は自分のスタンドを人形など別の器に憑依させることで操り、標的を攻撃する能力だった。
遠隔操作が可能だったため、近距離型のシルバーチャリオッツでは少し分が悪かった。
本体が遠くにいれば敵を倒す方法はたった一つ、そのスタンドを攻撃するしかないからだ。
でも勝てた。
その後検死結果で、ポルナレフの部屋にあった一部の血痕が、トイレで見つかった死体のものが一致した。
それによりポルナレフは警察に事情聴取される身になってしまい、ジョースター一行は予定よりも少し、ホテルに居座ることになったのであった…
〈次の日の午前〉
承太郎は1010室の前で溜め息をこぼした。
(ジジイの奴…)
事の始まりは祖父のジョセフに呼ばれた時だ…
『承太郎。少しお使いを頼まれてくれないか?』
“お使い”と子供じみた言葉が気になりつつ嫌な予感がした。
『由来と一緒に、列車のチケットを予約しに行ってくれないか?』