第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
由来は反抗もせずに、教師の言うとおり静かに教室から出た。
それを黙って見てることしかできなかった彼女は不思議な感覚に襲われた。
本当は自分だと、正直に名乗れなかったことの後悔
そして、特に親しいわけでもなかったのに何故自分を助けたかという謎
ただ一つ分かったのは、
由来には相手に恩を売っておくとか借りを作るとか、そういう下心を持っていないこと。
当たり前だが、宿題というのは自分でやらなければ意味がない。
彼女の行為は、助けたつもりで逆に愚かかもしれない。
しかし由来に助けられた彼女は、それ以来宿題を忘れることはなく、
いつか自分も、由来みたいに何も恐れず誰かを助けることができる人間になりたいと思ったのであった。
由来は決して明るい性格ではなく、友達と仲良くなることも得意なわけではない。
が、自分より相手を優先に考えるその優しさは、周りの人間を動かすこともあった。
今回、ジョセフに旅の同行を許可されるほどの信用を得たのは、全て
承太郎やホリィに親切にしたことから始まった。
しかし、それは言い換えれば、自分に災難が降りかかるほど行き過ぎた優しさとも言える。
教師に廊下を立たされ、頬を鋭利なペン先で怪我して、包丁で口を切ったりと、今まで数知れず怪我を負った。
承太郎が思った通り、彼女は人を助けようにも、それで自分から損してしまうタイプでもある。
(ポルナレフさんやっぱり遅い…)
由来は部屋を出ない代わりに、出入り口をジーッと見ていた。
「そういえば、君があの時何故オラウータンの異変にすぐ気付いたのか。理由を聞いてなかったな」
!
アヴドゥルの一声で、皆は一斉に彼女に注目した。
由来は思わず周りから目をそらした。
「?」
(……)
ジョセフたちは、何故彼女がそんな深刻そうな顔をするのか分からず、首を傾げた。
だが、承太郎だけは違った。
彼女が何を考えているのか理解してたので、無表情のまま彼女を見た。
「やはり君のスタンドにも、探知能力のようなものがあるのか?」
「……はい」
ここまで聞かれては、もう言うしかないか…
ついでに、
・・
あの能力も伝えようか…ジョースターさんなら信じてくれるかもしれない
「…私のは」
「やめておけ」