第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
背の高い順で承太郎、花京院、由来が縦に並んで歩いていた。
あまり人と親しげにしない承太郎に、他人には控え目の由来は、誰かと肩を並べることはあまり好まない。
花京院は2人の性格を何となく分かってたが、
(何で縦並びなんだ?避難訓練じゃああるまいし…)
と思いつつ、2人の間に挟まれてた。
「それで…何があったかここで説明できる?」
長い説明嫌いな承太郎の代わりに、花京院が歩きながら彼女に大まかに説明した。
「なるほど。こりゃ、のんびりしてる場合じゃあなかったってわけ…か」
「いや、仕方なかっただろう。よく考えれば、敵が君たちを襲わなくて良かったじゃあないか」
確かに、もし敵が狙ったのが女2人の、しかも1人はスタンドも持たない子供だったら…
「私が彼女と同室にしたのは、もしもの時のためでもあったんだ。また人質にでもされたら厄介だからね」
花京院も優しいが、彼女は特に相手を思う気持ちを常に持つ性格だ。
無関係の者を巻き込むこと自体、心苦しく思う。
自分のスタンド能力の危険性と、関係ない人を傷つけたくないという気持ち。
その矛盾に、今まで何度も心を痛ませた。
承太郎にも言われるほどのお人好しだ。
しかし何故彼女がそこまで、相手を思いやる気持ちを持ち続けるのか。
そこには彼女の他の人とは違う“ある理由”があることを、承太郎たちはこの時知る由もなかった。
「髪の毛を乾かすくらい待ってても良かったが…」
髪の毛を気を遣う性格の花京院は、振り向きざまに言ったが、
「え?」
由来の髪はとっくに乾いていた。
スタンド能力で冷たい風を頭周りに起こさせてたのだった。
「何か言った?」
「いや…」
自分が勘違いしたようで恥ずかしくなってきて、誤魔化すように付け加えた。
「君が髪を下ろしてるのは珍しいというか…」
普段はサイドに三つ編みしてたり、髪飾りを着けて…
「!」
由来は突然反射的に、来た道を見返った。
痴漢でいきなり後ろを誰かに触られて、びっくりしたかのように。
「おい」
承太郎が呼び掛けても、由来は後ろをじっと見た。
頭に触れていたので、髪飾りを付けていないことに今更気付いたのか?
「もしかして…忘れ物かい?」
花京院も聞いても、彼女は返事をしない。