第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
「は~。久しぶりのベッドだ」
由来は微笑ましく思いながら、冷蔵庫の中から瓶のジュースを2本取り出した。
1本をアンに差し出した。
「いる?」
「いやいい」
「そ」
自分の分だけ開けて飲んだ。
「由来さん、は……口の傷大丈夫?」
瓶の口から口を離して、手で触れてみた。
「…多分」
さっきアンが彼女を心配そうに見つめたのは、そういうことだった。
包丁でつけられたケガの心配をした。
「そういう君にも、酷なもの見せて悪かったね」
「いや…」
(それより自分の傷の心配しなよ)
やっぱりこの人、何て言うか…普通の人と…色々と違う
軍人っぽいズボン履いているし、昔軍隊か何かに入ってたのかな?
(いや…由来さんは20よりも歳下だって言ってたし、そんなわけないわ)
そもそも“アイツら”の方が異人すぎるわ
船に勝手に入った私が言えるタチじゃないけど、でも…
アンはその中でも特に、承太郎のことが気になって、またボーッとした。
「お腹が空いてるなら、冷蔵庫の中のものをテキトーに食べればいいよ」
「いや、そういわけじゃ…」
由来は2本目のジュースを飲み始め、部屋の壁に寄りかかった。
(喉渇いてたのかしら…?)
さっきからゴクゴク飲んでいる。
「うん…日本にはない味がする」
美味しいのか不味いのかよくわからないコメントをして、片手に瓶を持ったままずっと窓の外を眺めた。
確かにシンガポールは暑いから水分補給はしっかりしないと。
アンはコップに水道水を入れて少し飲んだ。
「…君は…父親に会いに来たって言ってたね?」
ギクリッ!
水が喉の変なところに入って、ゲホゴホした。
「う…うん!そうだよ!」
何故か焦っている様子だが、そこにあえて触れず与太話を進めた。
「いくら家族想いでも国境を越えるなんて、その歳でなかなか度胸があるね」
アンには密航をしたなど、叱るべき事はいくらでもあるのに逆に褒められ、複雑な気分になった。
(ああそういえば、あのおじいちゃん、自分の娘のためなんて言ってたわ)
「あの…そのジョースターさんが助けたいっていう人って、ジョジョの…」
「母親だよ。つまりジョースターさんと彼は祖父と孫っこと」