第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
「えっと…」
アンは少し強張った顔で何か言いたげに由来を見上げた。
「?」
女同士の相室なら問題ないはず。何か不服でもあるのか?
「私は男じゃないつもりでいたけど?」
「由来さんが女の子なことくらい分かるわよ!」
「まッ、まあ…となると、ポルナレフは独りになるな」
「フンッ。俺も子守するほど暇じゃないんでね。願ったり叶ったりだよ」
(全く。自己中心的な男だな)
花京院は、ポルナレフとは相性が合わないとこの時悟った。
「行くぞ。香港を出て以来ろくな目に合わなかったからな。早く安全な部屋でシャワーでも浴びようや」
ポルナレフに続いて、全員もそれぞれ部屋の鍵を受け取った。
ポルナレフは912、承太郎と花京院は1122、ジョセフとアヴドゥルは1212、アンと由来は1010だ。
「由来はアンと先に行っててくれ。何かあったら電話を使え」
ジョセフは女の子2人を先に行かせて、後ろにいる承太郎と花京院の方に振り返った。
「さて、お前たちに確認しておきたいことがある」
『?』
ジョセフの顔を見る限り、あまり良い話ではなさそうだ。
「これからも共に旅をする限り、お互いに深い関わりを持つ。そして由来とお前たちは同じ年頃じゃ。色々あるが…」
「言いたいことがあるならはっきり言え」
長ったらしい話が嫌いな承太郎は、相変わらず祖父に厳しい態度だ。
と言っても、2人は聞くまででもなかった。
ジョセフが最初、由来の同行に反対気味だった理由もそれであった。
仲間同士であり思春期である同士、男女間の色々と気まずい状況になるやもしれんと。
そんなこと、今さら言われるのも変だが…
「色々あって大変じゃが、変な気を起こさないように」
「しませんよ。あのポルナレフと同格に見られるなんて全くもって嫌ですし」
「フンッ」
承太郎も、そこらへんは花京院と同意見だ。
一方、その彼女は…
〈女子部屋〉
ガチャリ
鍵を開けて、恐る恐る部屋を覗いた。
しかし中は何も異常はなく、従業員が掃除したばかりのキレイな部屋だ。
「何で早く入んないの?」
「……」
ドアを開けた途端、アンは子供のように真っ先にベッドにダイブした。