第4章 “暗青の月”(ダークブルームーン)と“力”(ストレングス)
(さっきはとっさに掴んだがコイツ…よく引き上げられたな)
スタンド以前に承太郎と由来では、力も体重も全然違う。普通は困難なはず。
(火事場の馬鹿力ってやつか?いや…それより、もっと気がかりなことが)
「しかし、太陽の下に晒される限りこの土台は段々と溶けるだろう。そのたび何度も凍結し直すということか?」
アヴドゥルは下の氷に触れた。
「氷は溶けません…私が生きている限りは」
なんとそれは、“溶けない氷”であった。
炎は有機物があるからこそ成り立つもの。
燃やす対象がなければ、その姿は維持できずいつかは消えてしまう。
しかし由来の氷は、彼女が恣意的に消さない限り、また彼女の命が尽きるまでは永久不滅なのだ。
「え!じゃあ急にかき氷が食べたくなったら出せんの!」
「ポルナレフ。そんな子供じみたことを言…」
「出せますよ」
ポルナレフの冗談を諸ともせずそのまま返した。
ジョークっぽく言ったのがまさかの実現可能で、アヴドゥルはさらに驚いた。
彼女が言うには、“普通に溶ける氷”もできるらしい。
「まあ、私のスタンドは精密さに少し欠けますがね」
かき氷ほどの頭がキーンとなる程度もできれば、極寒地獄ほどのヤバい奴も出せる。
煙草の火から灼熱の業火まで出せるアヴドゥルと同じである。
では、さっきの海を凍らせた氷結は、果たしてどれほど本気であったのか?
承太郎はさっきのほんの一瞬で分かったことがあった。
掴んだ手が…異常に冷たかった。
自分の手のひらに、その時の凍みがまだ残っている。
まるで、冬真っ盛りの公園の鉄棒のようで、腕の中に、氷でも敷き詰められいるのではないかと、錯覚するくらいだった。
(能力が本体に影響を与えるほどの力ってことか?)
ポルナレフが握手をしたときに見せた不可解な行動が、今なら納得できる。
あと掴んだ一瞬、静電気が走ったような感覚があったのは気のせいか…
「あと一つ言っておきます。戦闘時はなるべく、私から距離を置いた方がいいです。いや、置いて下さい」
由来は人差し指を立てて皆に忠告した。
それは無口な彼女が自分から話すほどの、
・・・・・
重要なことであった。