第1章 序章
スタンドという謎の力を自覚して以来、急に出てきたり制御不能になることは無くなった。
鏡に映っているその像を自分自身だと理解することで、驚かなくなったようなものだ。
不安要素が無くなり、そしてようやく普通に学校に行けるようになって安心だ。
(今朝は本当におぞましいモンを見たな……)
と思いきや、承太郎は浮かない顔で、今朝方見た奇妙な夢のことを思い出しながら、登下校の道を進む。
顔も全く知らねえ会ったこともねえ女が死にかけた不気味な夢を見た。
雨上がりのような血の景色。思い出すだけでも悍ましい。
深くえぐられた傷口まではっきり覚えている。
目が覚めたとき気付いたが、汗もかいていた。
しかも今回だけでなく、留置場にいたときも見た。
“また同じ夢…”
(あんな有り得ねえ…いや、本来“幽波紋”(スタンド)なんて存在の方が有り得ねえのは確かだが……)
突拍子もない話を聞かされ、こちとら全く実感がないというのに。
あんなのただの夢だ。そのうち忘れると、承太郎はこの時はそう思った。
通学路を歩いていると、同じ学校に通う女子高生たちが群がってきた。
軽率に挨拶してきて腕にもしがみつき、挙げ句の果てに女同士が勝手に口論も始めた。
「やかましいッうっとおしいぞォ!」
承太郎が強い言葉を浴びせても、逆に喜ぶ様子。
呆れてそのまま学校へ向かう。
慣れた通学路の途中にある石段を下りた。その時、
グッパオン
(何?!)
何の前触れもなくいきなり膝が切れたことにより、石段を踏み外しそのまま地面に向けて落ちた。
女子高生たちは悲鳴を上げる。
(ム…木の枝)
承太郎はとっさにスタンドを発現させてそれを掴んだが、体重を支えきれず折れた。
ベギッ!
(しまッ…!)
モフッ
「?」
石段へ真っ逆様に落ちたにも関わらず、全く痛くなかった。
腰椎や足首など何かしらケガはするはずなのに、痛みの感覚がまるでない。
(何?)
承太郎は足元に違和感を感じ下を見たら、目を疑った。
(何だ?コイツは…?!)
本や動物園でよく見かける白くて大きな動物。
北極グマがこちらをじっと見つめていた。