第14章 告白と小さなお別れ
(由来……)
ホテルの一室にて、花京院は2人の話をハイエロファントを通して聞いていた。
2人の距離が縮まるような展開を期待していたが、全く予想外の状況を前に、声が出なくなっていた。
由来のその声は、今まで聞いたことがないくらいに、悲しい音色を帯びていたのだから。
ピアノを弾いている時の、生き生きとした旋律とは程遠い。
大切な人を失いたくない気持ちの籠った、優しく儚い弱音だ。
由来はフッと笑みを作る。
「……やっぱりさ。約束なんてするものじゃあない。破るも破られるも、どっちみち辛くなるだけさ」
承太郎から目を逸らして、辺りの夜景色に目をやって、諭すように言う。
「生き抜いた後の達成感より、一生引きずるような後悔はしたくない。たとえ、命の恩人様の頼みでもね」
「……」
「それにこの先の戦い、そんな想いの力とか、約束の一つで、そんなんで乗り越えられるほど、甘っちょろいものじゃあない。現に、スタンド使いのキャリアとしては一流だったアヴドゥルさんでさえも、あんなことに……」
「……」
聞いているはずの承太郎は、相変わらず何を考えているか分からない無表情で、リアクションが無い。
時にその無言の圧力と威厳さは、モアイ像みたいだと思ったのは、心の底にしまっておく。
(……私はただ、誰かに死なれるのは、もうごめんなんだ)
華音先生は、私を子供だからと言って何も教えてくれなくて、自分だけ納得するような最期を迎えた。
話してほしかった。子供でも、少しは対等に見て欲しかった。
そうすれば、ちゃんと別れと感謝を言えたはずた。
私だって、納得したかった。
"アイツ"の時だって……
ギュッ
由来は左肩をグッと抑える。
(私の周りの人は皆そうだ。私のためと言いながら、結局のところ、私の気持ちを無視して、自分が納得する最期を選んでばかり……)
結局は自分の気持ちのためなんだ。
そして現在、私の目の前にいる"この男"(承太郎)だってそうだ。
私に死んでほしくないと思っているそうだが。
だが、私もそうだ。皆には生きてて欲しいから、そのために自分の命をかける。
誰もが、大切な人のためと言いつつ、結局のところ、自分の気持ちを守るためのエゴを押し付けているだけなのかもしれない。