第14章 告白と小さなお別れ
「とにかく、承太郎が誰かに頼んだり甘えたりするなんて、滅多にないからのう。わしからもよろしく頼みたい」
「……」
期待が込められた笑顔を前にして、由来は言葉に詰まる。
覚えのない約束事を言われて混乱していると、正直に話すべきか。
しかし、何事も正直が良いとは限らない。
何より、なぜ承太郎がそんな嘘を吐いたのか分からない以上、彼の思惑に反することを言うのは、賢明ではない気がする。
そんな思考がよぎり、自然と頭に浮かんだ言葉が口からポッと出てしまう。
「……はい。努力します」
こうして、ジョースター御一行の奇妙な食事会は、お開きとなった。
一時の穏やかな時間が過ぎ、夕食後は各自の自由行動時間となった。
花京院は自分の部屋へせっせと足を急いでいたら、後ろから大きな影が現れる。
「おい花京院」
「げッ…」
花京院はあたかも、来ることを予め知っていたかのようなリアクションを取る。
「さっきの話。どういうつもりだ?」
承太郎は明らかに不穏な空気を漂わせて、花京院に詰め寄った。
「……何のことだい?」
「とぼけてんじゃあねえ。てめーが一番よく分かっているはずだぜ」
客室廊下で、同室の男子高校生が、何やら揉め事を起こすような雰囲気になっている。
通りがかる一般客は、一瞥して気になりながら、関わらない方がいいと察してか、そそくさとその場を離れる。
花京院はそんな視線が少々居たたまれなく、直接聞く。
「ポルナレフに聞いたことを言っているのかい?」
「……」
・・
「あれは単なる疑問さ。君の名前はもちろん、彼女の名前も出してないから、大丈夫かと思ったんだけど」
承太郎は由来に想い入れがある。
日は浅いといえど、花京院は友人としてそんな直感があり、どうしても聞かずにはいられなかった。
それに、いつもポーカーフェイスの承太郎を少しからかいたくもなったのも事実である。
「どうやら不快にさせてしまったかな?」
「……いや、不快まではいかねえが、お前」
2人の背後に小さな影の気配がヒョッと現れる。
(あ…!)
その本人が絶妙なタイミングのお出ましで、花京院は目を開く。
「承太郎。話がある」
しかし、その由来の声色は少なくとも、穏やかなものではなかった。