第14章 告白と小さなお別れ
少し時間を遡る。
由来はアンとポルナレフからのリクエストにより、ピアノを弾き始めた。
彼女の音楽の世界に、ラウンジ内にいた誰もが入り込んだ。
「わあ……すごい…」
アンは演奏を邪魔しない程度の小さな声で感嘆を漏らす。
「……」
その一方で、ポルナレフは声すら出なかった。
初めて体験する彼女の世界。音楽の調和の世界。
彼女の指先の動きに続いて奏でられる音色が、あまりにも綺麗だった。
繊細で儚いようで、その両極端であるはずの力強さも、その演奏から感じ取られる。
ホテル内の客だけじゃない。少し離れた場所に待機しているフロントスタッフでさえ、目が釘付けになっていた。
いつの間にかギャラリーが出来ていたが、ポルナレフは気にもとめず、彼女のピアノに集中していた。
(す、すげえ……これが、"天才"ってやつか?)
しかし、安易に使っていい言葉じゃねぇ。
努力無しで才能を掴める人間なんて、この世のどこにもいない。
由来は恐らく、ピアノに没頭する"何か"があって、ここまでの実力を持っているんだ。
(俺がかつて、妹の仇であるJ・ガイルをこの手で討つために、スタンドの修行に没頭していたようにな……)
由来にも、やっぱ、"そんな奴"がいたのかねぇ?
自分の演奏を聴いてほしいと、心から願うほどの"誰か"って奴が……
ポルナレフの瞳の奥には、誰かも分からない、由来の大事な誰かの影が写った。
ピアノの緩急がさらに激しくなり、そして、嵐が過ぎ去った台風のように、フィナーレを飾った。
そして、賞賛の声、拍手、口笛が、再び嵐のように現れる。
(ま、また…注目されている……)
インドのレストランにいた時とデジャヴで、由来心の中でため息を漏らす。
ギャラリーが引いていく中、アンが人混みから現れた。
「すごいや!片目なのに何でそんなに弾けるのッ?!」
少し興奮気味に、迫るようにして由来に聞く。
「幼い頃から弾いてるから、慣れているだけだよ」
アンに続いて、ポルナレフが会話に入る。
「へえ、お前って物静かで、自己主張しない奴だと思ってたがよぉ。何かきっかけがあったのか?」
「……そうですね」