第14章 告白と小さなお別れ
そして代わりに、達筆に書かれている手紙を受け取り、中から長い文書を取り出した。
先生の字に間違いなかった。
『病気のこと、黙っていてごめんなさい。
あなたがようやく、大切にしてくれそうな人に引き取られると知ってから、あなたを悲しませたくないと思い、きれいなお別れをしたかったの。
あなたがもし、この牢屋のような施設に、再び訪れることができるようになったくらい、今を幸せに生きているのなら、先生はそれだけで、とても幸せだわ。
たとえ、あなたに直接、その喜びを言葉で伝えられなくても…
私は、ピアニストを引退してから、とても真っ暗なトンネルをずっと歩き続けていたの。
どこがゴールで、もう私のピアノは誰の助けにもならないんじゃないかと、不安な日々を送っていたの。
だからせめて、子どもたちの助けになりたいと思って、この施設に働き始めました。
そこで出会ったのが、由来ちゃん。アナタです。
アナタの母親が手に火傷を負わせたという事情を聞いて、私はとっさに思ったの。
ピアノをすれば、火傷で萎縮して引きつった皮膚を少しでも楽にすることができるんじゃないかと。
音楽療法なんて大層なものではないけど、それでも、やらないよりやった方がいいと思い、アナタにピアノを教えました。
時には、現役時代の熱が吹き出して、とても厳しく言ってしまったこともあったわね。あの時はごめんなさい。
アナタとの時間は、私の暗いトンネルに光を灯してくれた貴重な一時でした。
だからこそ、その時間の最後を、病死なんて形で終わらせたくなかったの。
フィナーレは華麗に飾るのが、ピアニストの醍醐味でしょ!
アナタが上条さんに手を引かれて、施設の門を出た瞬間、私の今までの人生はこの瞬間のためにあったんじゃないかと、そう思ったの。
アナタがこの手紙を読んでいる今も、この先も、幸せであり続けていることを、上からずっと祈っているよ。
たとえ絶望することがあっても、そこで終わっては決してダメよ。
だって、絶望の後には必ず、希望があるのだから。
それに、アナタは私にとって、最初で最後の教え子だから。
元気でね…… 華音先生より』
「由来?泣いているの?」
アンがこちらを見上げて聞いた。
「え?」