第13章 “運命の車輪”(ホウィール・オブ・フォーチュン)
息子が死んだ今、エンヤ婆の今の生きがいはDIOだけ。
しかしそのDIOへの忠誠を表すために送り込んだ7人のスタンド使いが破られてしまった。面目丸潰れである。
悲しみの連鎖が続き、心が割れそうになる。
そしてその悲しみ以上に、怒りの感情が噴き出て、エンヤ婆は地面に頭を叩きつけた。
「…ケェー!おのれッ!憎っくきポルナレフッ!花京院ッ!そして承太郎においぼれジョースターッ!そして……」
エンヤはさらなる鬼の形相で、空気を吸って勢いよく彼女の名前を口にした。
「DIO様への恩を忘れ、奴らに寝返ったあの小娘!!!」
無敵の氷の能力を持つスタンド、ホワイト・シャドウ。
それを操る唯一無二の存在。そして誰も踏み込めない過去の領域を持つ娘。
ただ1人、DIO様を除いてはな。
(DIO様が海底から地上へお戻られた4年前よりもずっと前、ワシは日本にいる奇妙なスタンド使いの噂を耳にした)
ワシはそのおなごの内に秘める妙なスタンドパワーの潜在力に目を付け、奴をエジプトに連れてきた。
そして4年前、あれは運命の歯車が動き出した時じゃった。
わしらはDIO様をお迎えし、共にこのエジプトへ来た。
小娘は表向き、日本で普通に学生生活を送りながらも、DIO様の命令とあらばその白い陰で邪魔者をいくつも殺した。
ジョースターの末裔、承太郎が日本にいると分かった時も、あの小娘に始末を頼むつもりだった。
スタンドパワーに目覚め、使いこなしてしまう前にトドメをさせと。奴なら簡単にできたはずじゃった。なのに…!
(2年前、突如、音信不通になり、死んだかもしれぬとDIO様は思い、別の遣いを出して調べた。すると何じゃ!奴は自分がDIO様の忠誠な僕であることを、忘れたじゃとォ~?!)
記憶喪失か何かは知らんが、わしはすぐにでも裏切り者は殺すべきじゃとDIO様に直談判した。
じゃがDIO様は数枚のDISCを手のひらで踊らせながら、笑ってこう仰った。
『フッ。そう急ぐなエンヤ婆。このDIOに2年ほど尽くした情けだ。何か事情があるやもしれん。俺の方で調べることにする。それに……』
裏切られたとは思えないあの時のDIO様の笑みは、今でも忘れやせん。
『気が変わった。少しずつ興味が沸いてきた。“コイツ”(DISC)の中身が、一体何なのかな……』