第13章 “運命の車輪”(ホウィール・オブ・フォーチュン)
「え?あ、いや、君は以前より口数が少し多くなったというか、そんな風に昔の話をしてくれるのが、なんだか嬉しいなって…」
花京院は頬のあたりを指先でかいて、少し照れ恥ずかしそうにした。
「!……あ、ああ。何だそういうことか」
「そんなことより手が…!」
「大丈夫。承太郎の傷に比べたら大したことないさ」
承太郎は先ほど負った左腕あたりの火傷を確認した。
(ん?治っている…?おかしいな。さっきまで軽い火傷があったはずなのに。冷やしたからか?いや、そんな早く治るはずはねえ)
そして今度は彼女の先ほどの反応が気になった。
((今、何て呼んだの…?))
(コイツ、今確かに、
・・・
呼んだと言ったな)
ちょうど左隣に座っている彼女の頭の上を見下ろした。
(取り乱すということは、何か意味があるということだ…まさか、コイツ……)
カタ…カタ……カタ……ギギィ…
承太郎と由来を囲う世界の運命の歯車は、うまくかみ合っておらず、歪な雑音を奏でながら回り続けていた。
彼女の正体は一体何なのか。何が真実で何が偽りなのか。
その事実を握る鍵は、彼女の魂に刻まれている。
(……)
由来はジョセフに手当してもらい、再び外の景色を眺めた。
パキスタン国境近くの山間と無限に広がる上の空の目に焼き付けていた。
この世界はとても美しい。焼けた山や淀んだ空は無い。
上を見上げる。
でも、私の仲間はこの世界にはいない。
(……兄。アンタは一体、私に、何をさせたいの?)
どうして…私を……
〈DIOの館〉
ろうそくの火だけが灯された、暗い空間で、1人の老婆が跪いて泣いていた。
「しくしくしくしくしく。心の清い、しくしく我が…愛する息子。しくしく、J・ガイル」
老婆の名前は、エンヤ。DIOの側近として仕えるスタンド使いである。
しかも、DIOにそのスタンドの使い方を教えるほど、スタンドを熟知しているプロフェッショナルだった。
そんなすごい老婆が、羅生門の老婆のごとくとてもやつれて、以前の賢者のような趣や立ち振る舞いなど微塵もなかった。