第13章 “運命の車輪”(ホウィール・オブ・フォーチュン)
「ま…、もうこいつがおそって来ても、こわくはないが…こいつの旅行パスポートをいただいておけば、しばらくはインドを出ることはできまいて…それと、ぶっこわされたランクルのかわりに、この車にのって、国境を越えよう…」
ジョセフは敵の懐からパスポートを抜いておいた。
「随分とボロい車ですが、持ちますかね」
花京院は当然の心配をした。
何せジョースター御一行の“旅”は、必ずと言っていいほど、“度々”乗り物を壊すからだ。“旅”だけに。
そしてこの旅に連れてはならない人物がいる。スタンド使いじゃなくさらに小さな子供であるアンだ。
「ところでそれと…おめーは飛行機でホンコンに帰すからな」
「ええ!?承太郎どおしてェ~。やだ!やだ!いっしょに行きた~い」
アンはだだをこねて、ポルナレフは一喝した。
「やかましい。足手まといになっとんのが、まだわからんのかァ。おのれはッ!飛行機めぐんでもらえるだけ、ありがたいと思えよッ!!」
さっきまで怖い思いをしていたのに、まだ同行したいと思っている。何て執着心だ。
その光景を遠巻きに見ていた由来。
ズキズキンッ!
「!」
頭の奥で何か妙な感覚を覚えた。頭を抑えた。
あ…れ……?
アンくらいの小さな子供が自分より大きな男の人にただをこねている。
どこかで、同じようなことが……あ。
あれは、船の荷物に潜り込んでいて、見つかってしまった時のことだ。
『私もアンタと一緒に行きたい』
『ダメだ。君は今からでも日本に帰れ……君を巻き込むわけにはいかないんだ。君の父の頼みだ』
懐かしい声、懐かしい顔、懐かしい煙草の香りが蘇る。
その男は仲間たちに背を向けて、ため息をついた。
『君は僕たちのようになる必要はない。妹を喜んで戦場に連れて行く兄貴がどこにいる?』
『……アンタは…私を施設から引き取った時、確かに言ったはずだ。「自分が進む道を自分で選べるようになるまで、面倒を見る。だから僕の意志ではなく、君自身の意志を抱けるようになれ」と。今がその時じゃあないか』
『……』
『それに私は…アンタに死なれちゃあ、受けた恩を返せなくなる』
(何で今更、あんなこと、思い出すの…?)