第13章 “運命の車輪”(ホウィール・オブ・フォーチュン)
安心するのも束の間だ。何せ敵の車には、工具入れのように多種多様な道具を持ち合わせているのだから。
もっとも、工具入れのように、車を直すような道具ではなく、
・・・・・・・・・・・
車で物を破壊するための道具だが。
「コソコソ逃げまわるんじゃねーよ。ゴキブリか、てめーらはよー」
バギ ボゴ ガゴッ!!!
『“運命の車輪”(ホウィール・オブ・フォーチュン)』のタイヤからスパイクが生え、岩の壁を崩して隙間を大きく開け始めた。
彫り師が木の断面を削り取るように、岩の壁をいともたやすく削った。
もっとも、彫り師のような優雅さの欠片もなく、とても荒っぽかったが。
「オォ~ノォ~。無理矢理入ってくるぞッ!」
「こいつは手がつけられん」
「たとえるなら!知恵の輪ができなくてカンシャクをおこした、バカな怪力男という感じだぜ」
(ポルナレフさん。スタンドの剣さばきだけでなく、頭の回転も速いらしいな……)
ジョセフ、花京院、ポルナレフも敵の荒っぽさに驚いていた。
そして由来は、ポルナレフの独特な比喩表現に驚いていた。
(とにかく、もう一度盾を張って時間稼ぎを…!)
グラァ……
「え……」
眼帯の奥から、鈍い痛みがする。左目の視界がぼやけた。
(これは……)
「奥へ逃げろッ!!」
承太郎の一声でハッとなる。
車から逃げるためにジョセフたちと共に、壁を登った。
平地ではなく岩壁の上なら、取りあえず距離を取れる。
アンのことはジョセフが見てくれて安心だ。
(ッ!これ以上、スタンドパワーで氷の盾を作ればヤバいってわけか……)
痛みは体の異変を知らせる大事な感覚。体が防衛本能でセーブしてるってことだ。でも……
DISCを奪われたことによる弱体化。怪我の後遺症。
由来は悔しさがこみ上げてきて、岩壁を掴む力を強めた。
インドで脚を撃たれた時の傷も、まだ完治しておらず、皆よりも登るのが一苦労だ。
そして、片目では物の距離感が掴みにくく、登りにくい。
(足手まといはごめんだっていうのに……)
「おい。掴まりな」
「!」
承太郎がすぐ上の方から手を伸ばした。