第13章 “運命の車輪”(ホウィール・オブ・フォーチュン)
花京院くんなら分かるけど、何だか、違和感だ。
由来はそう思いながら、口の中に酔い止めを入れて、水を流し込んだ。
彼女は自覚していなかった。
承太郎が優しく接するのは、
・・・・・・・
彼女だからこそなのだと。
友人にしては初めて会ってまだ日が浅いし、お互いに友情を育もうと積極的な性格のわけでもない。
しかし、インドの戦いを経て、承太郎の彼女に対する態度は、明らかに変わってしまった。
死体になった由来を見てしまい、その影響で、少々過保護になってしまったのだった。
あんなことは二度とごめんだと。
そして承太郎もまた、その無意識にとらわれていることを、自覚していなかった。
「ん?それ、承太郎のものじゃあなかったか…?」
ジョセフは由来が飲んでいる水を指摘する。
ピタッ
由来はペットボトルを傾き具合を緩めた。
(え、これって……)
待てよ。あの時、私が買った水は、襲撃の際に置き忘れていたんだ。
承太郎は偶然同じ物を買っていて……というか、このペットボトルは、固く閉めていただけで、すでに開けられていた?
(え、じゃあ私、承太郎の飲みかけを……)
由来は羞恥心による条件反射で、少し吹き出して、のどを痛めた。
ゲホッゴホ
「うぉッ…!だ、大丈夫か由来?」
(いやいやいや。新品かと思うくらい、蓋が固かった。承太郎力強過ぎ)
と、取りあえず、落ち着け。こんな時にこんな下らないことで取り乱すんじゃあない。
飲みかけを口にすることは別に犯罪じゃあないから、セーフだ。
そもそも、“本人”(承太郎)は何で涼しい顔してんだ…!?
「俺の水どうぞ」とか、一言くらい添えてもよかったんじゃあないか?
明らかに動揺している由来を、アンは物珍しそうに眺めていた。
(由来さん……なんか、少し…変わった…?)
一方で助手席にいる花京院は、車が進む道に違和感を覚えた。
「おかしいな。地図によると、この辺のパキスタンへの道は、トンネルがあって、鉄道と平行して走るはずなんだが……」
「どうでもいいぜ。すぐつかまえるからよッ!」
ポルナレフは回りの景色より、前に走っているイカレ車に一点集中していた。