第13章 “運命の車輪”(ホウィール・オブ・フォーチュン)
昔、ある男に引き取られた。
施設の奴らは去っていく私をじろじろ見ている。
それはそうだ。気味の悪い子供が出て行くのだから。
「やっぱり、物心ついたときから住んでいた場所が名残惜しいかい?」
遠ざかっていく児童養護施設を眺める私に、男は優しく声をかける。
顔を上げて、男の顔を初めてちゃんと見た。
少しうねった黒髪で、おしとやかな性格そうなのに、とても暗い色のコートを着ている20代後半の男だ。
細身なのにその体の芯から何かただならぬ力を感じる。
“これから私は、この人の養子になるのか……”
私は男が投げかけた問に対して、「違う」と答えた。
「ふふっ。取り敢えずこれから僕の家に行こう。いや、
・・
君の家にもなるけどね」
自分で言ったことに対し、フフっとお茶目に笑う。
「家に着いたらジュースで乾杯するか。新しい住人を祝って。何か飲みたいものでもあるかな?」
“……”
とりあえず水を飲みたいと答えた。
それから私は男の言うことを淡々と聞き流す。これからの生活について。
そして、スタンドのことも。
「君や僕の力は世間一般では有り得ない能力だ。それをうまく隠しながら扱うには相当な訓練が必要だ。
・・・・・・
特に君にはね。君にそれを叩き込むから、覚悟しな」
さっきまでのおちゃらけた雰囲気とは一変して、まるで戦場の兵士のような威厳が男から醸し出た。
そしてまた元の笑顔に戻る。
「僕と君はちょうど20歳差だ。親というより“兄”と思ってくれればいい。僕も君を"妹"として扱う」
「兄?」
「一目見ただけで分かった。君は僕がよく知っている存在だって。これはきっと何かの縁だ。いつか君にも話すよ」
男は優しく微笑んだ。その目はとても綺麗な緑色だった。
私の光のない赤い瞳とは全くの真逆だ。
“アナタは、誰ですか?”
私は初めてその男に問いかけた。それが嬉しかったのか、男は声のトーンを上げて答えた。
「僕かい?僕は上条だ。うえの“上”に条件の“条”で上条。上条倫太郎だ」
倫太郎?
「だからこれから君は、上条由来だ。僕とお揃いだな」
その時、あの人が見せてくれた笑顔は、まだ子供だった私よりもよっぽど子供らしく、それからの私の運命を変えたのだ。