第13章 “運命の車輪”(ホウィール・オブ・フォーチュン)
スースーと小さい寝息を立てていても、隣のどちらかには寄っかかることはせず、まっすぐな姿勢で座っている。
(もし隣にいたら、膝枕くらいできるのにな~)
ポルナレフは運転席で密かに思った。
彼女の隣にいる承太郎に「膝枕やってやればいいんじゃあないか?」と言おうかとも思ったが、何言われるか分からないのでやめておいた。
またミラーで後ろの由来を見た。
右目は眼帯で隠れていて、やはり痛々しい姿だ。
そしてそんなことになったのは、自分が敵討ちに焦ったのが原因だ。
アヴドゥルがポルナレフを助けに行ったことで、ジョセフは2人の捜索を余儀なくされた。
その隙をついて、敵は由来を拉致しようとした。
ハンドルを握る力を強める。
(由来がDIOの仲間だったなんてことはあり得ねえ。由来は独りで行こうとした俺を、何とか止めようとしたくらい優しい奴だ。そんな奴が、自分からDIOの仲間になるなんて……)
承太郎から事情は聞いていた。
敵は由来のことを確かに“旧友”と呼んでいた。DIOに自ら忠誠を誓い、喜んで殺人もしていた悪だったと。
しかしここにいる誰もが、敵の言ったことはでっち上げだと思っている。
由来への不信感を募らせ、仲間割れさせるための嘘だと、そう信じている。
(過去に何があったかは知らねえが、俺もアイツを信じている。由来は絶対に嘘は付いてねえ…)
「ゲッ!」
思考を巡らせていたら、とんでもないものを目にして反射的にブレーキを踏む。
反動で車内に圧がかかり、皆がよろめいた。
承太郎はとっさに反応して、爆睡している彼女が倒れないよう支えた。
「どうした!ポルナレフッ」
「いったばかりじゃろッ!事故は困るってッ!」
もしや敵スタンドかと皆は身構えたが、ポルナレフは前方を指差した。
「ち…ちがうぜ…み…見ろよ。あそこに立ってやがるッ!」
そこには確かに子供がいた。髪の毛が長いから女の子だ。
オーバーオールに見覚えのある帽子を被っている。親指を立ててヒッチハイクのサインを出している。
「やれやれだぜ」
承太郎は呟く。
「よっ!また会っちゃったねッ!乗っけてってくれるーッ!」
シンガポールであった家出少女アンが、帽子を取って笑顔で言った。