第12章 クーリング ダウン
「ほえ~。お前のスタンドの氷、感知能力もあったのか~。すげえ便利だな」
由来はポルナレフにその氷を手渡した。
「…そうですね。でも……あまり戦闘向けではないんですけどね…」
そう言って暗い顔をして、彼女は自分の部屋に入った。
「うおっ!冷ち~。じゃあ俺はこれ棚の上とかに飾っておくから、先に部屋入るぜ!」
ポルナレフは氷を持っている方の手が冷たくて痛く、急いでポケットから部屋の鍵を取り出して、鍵を開けて中に入った。
同室の花京院も続いて中に入り、承太郎は別の部屋に1人で入った。
それからのことは、まずポルナレフはバスでずっと説教していた女性と偶然ホテルの前で出会い、「これは運命だ」と舞い上がり、彼女とデートすることになった。
独り部屋に残された花京院は、その様子を部屋の窓から見下ろしていた。
(1人になっては危険だと10分前に兎神に言ったばかりの張本人が、僕を部屋に残してなんだかな…)
3階からでも分かるくらい顔が緩みきっていて、あまりにも浮かれているその様子に、ため息しか出なかった。
(まあ僕はあまり友達と遊ばないし、よく部屋にこもってゲームばかりやるから、独りになったところで、ポルナレフのように寂しがることもないが……)
聞いているとこっちが悲しくなりそうなことを考えながら、部屋を一回り見てみた。
さすが不動産王のジョセフ。ホテルはいつも上等なところばかりで、部屋の様式は高級感が漂っている。
インドの街の不衛生そうな空気とはまるで違う。清潔感がある。
白いベッドのシーツに、額縁は顔が写るくらい丁寧に磨かれている。
ふと棚の上に、ポルナレフが置いた由来の氷が目に入った。
(叩けば向こうが気付くと彼女は言っていた。けど触るくらいならいいはずだ…)
近付いてみて、それを手に取った。
「ん?」
よく見ると、氷の表面が何だか変わっていることに気が付いた。
手の平を丸めて型にして作ったから、その形に凍るはず。だが、何だか思った以上に歪で凹凸があった。
(手の平で凍らせて、こんな表面になるのか?)
コンコンッ
「?」
ノックの音で、僕の意識は氷からドアへと変わった。