第12章 クーリング ダウン
バスの外を眺めていると、人気の多い街が見えてきた。
聖なる河ガンガー(ガンジス)。聖者・老人・病人・こじき・こども・牛・猿・犬・食べ物・排せつ物・燃える死体。
すべてをやさしく包み込み、流れつづける河……この河には、生まれてから死ぬまでの全てが縮図としてある。
ここー聖地ベナレス(ヴァラナスィ)に人は、何ヶ月いてもあきないといわれるが。それは、ここで出会う風景がきっとその人の魂の内なる風景だと感じるからだろう。
由来の隣の席にいる花京院は、日本とは全く世界観が違うその異様な光景に目を奪われた。
昼にもかかわらずキャンプファイヤーをしていると思ったら、なんと死体を積み上げて火葬を行っていた。
他にもとても痛そうな修行を行っている地元の人もいた。
針の上で寝そべったり、首から下を埋めて頭に針を刺したりなど、方法はオールマイティ。
ジョセフたちはこの街で宿をとり、旅の続きは明日にすることにした。
バスから降りると、承太郎が祖父の様子が変なことに気がついた。
「どうしたじじい。元気がないな」
「うむ。虫に刺されたと思っていたところにバイ菌がはいったらしい」
確かにジョセフの腕には大きな虫さされの跡がある。
インドのような異国の地で、自分が見たこともない虫に刺されるのもおかしくない。
「これなんか。人の顔に見えないか?」
「おい!冗談はやめろよポルナレフ」
ジョセフはいつものポルナレフのおふざけに一言言った。
由来は二人の会話に耳を傾けながら、胸の内に何だか安心感があった。
なぜなら、復讐のためなら自分の命を惜しまなかったあのポルナレフが、今こうして自分たちと共にいる。
彼は役目を果たしたにも関わらず、ジョースターたちに力を貸し、DIOを共に倒すことを決めてくれた。
こうして彼お得意のムードメーカーを醸し出しながら、共に戦ってくれる彼を尊敬した。
(それに比べて私は、仲間に寄り添うことをためらい、ずっと距離を取ってきた……ポルナレフさんのようなコミュニケーションスキルの欠片もない)
生まれついてのスタンド使いでありながら、明るくポジティブでいられる彼を、少し羨んだ。