第12章 クーリング ダウン
猫は、さっきのエンヤ婆のように全身から汗が吹き出しそうなほどの動揺を見せた。猫だから汗は全くかかないが。
「も、申し訳ございません。DIO様にすぐ報告しに向かうはずが、まさかあなた様から直々に来られるとは。お手を煩わせました……返す言葉が見つかりません」
尻尾はピーンと立ち、毛は逆立っていた。
由来と戦っていたときの傲慢さの欠片もなく、圧倒的な力を持つ相手を前に低姿勢になっていた。
由来を生け捕りにする命令を果たせなかった。
自分のその過ちを問われる前に自ら打ち明けた。
DIOの顔に泥を塗った結果になった。たとえ逃げ出さなかったとしても、失態を犯したのは変わらない。
この場ですぐ殺される覚悟もあった。
しかし、DIOは殺気を放たなかった。
「どうした?何をそんなに焦っている?お前は自分が失態を起こしたと思っているのか?」
ゾワワワ~
吸血鬼から放たれる冷気が、猫の緊張感をさらに掻き立てた。
立ち話も何だから館の中の部屋で話そうと、猫を招き入れた。
コポポポ
DIOはグラスにワインを注ぎ、片手で持って椅子に腰をかけた。
「あの……DIO様。これは一体…?」
DIOは静かに口を開いた。
「何か勘違いをしているようだが、私は別に怒ってなどいない。それか、お前は私が怖いのか?」
「い、いえ!滅相もございません。ただ…私はあなた様からの命令を二度も果たせなかった。DIO様の怒りに触れたのは当然です」
・・・
「二度か。一度目は、この私でさえも予想できなかった事態だったからな。驚いたのは当然だ」
DIOは全く怒ってなどいなく、むしろ部下の失敗を宥めた。
DIOはプライドが高いから自分に非があるなど考えなさそうだ。なのになぜここまで言うのか。
その理由は、彼女にあった。
(あれは、ほんの偶然の出来事だった)
1年半前、私はジョースターの血統を受け継いだ者がいることを知ってから、幾度か念写を試みた。
・・・・
あの時も、そのつもりでいた。
((こ、これは……!))
目を疑った。いつものように念写で写し出した写真を見たら、そこに写っていたのはジョースターではなかった。
死んだはずの“最強の盾”。“氷雪”のスタンド使い。