第11章 そんな言葉じゃあない
「……」
「どうした?手を出せ」
由来は承太郎にはとても感謝していた。
感謝していたこそ、ここまで親切にされるのは、何だか申し訳ない気もしてならなかった。
それに、気安く男子の手に触れるに躊躇いもあった。
(モテる人は、手をつなぐことに何のためらいもないのか?)
私は他の女子とは違って、「ラッキー、キャホー」なんて喜ぶ気もない。
「だ、大丈夫。急がないといけないし。それに承太郎は私をずっと担いで疲れて……」
担いで……あれ?
(私……死んでいる間、ずっと承太郎に抱えてもらってたのか…)
今頃になって気付いた。
手に触れるのにも抵抗があったのに、なぜあのときずっと抱えてもらっていたことに恥じらわなかったのか。
敵と交戦中だったから考える余裕が無かったのか。
しかもよく考えたら、弾丸を抜いてもらったとき、手を握ってもらったような…
カアァ
由来は手で左目あたりを覆った。照れ隠しである。
「?」
由来は急に黙り込んで困って、なぜそんなリアクションを取るんだと、承太郎は疑問に思った。
「なら担いだ方が手っ取り早…」
「手でお願いする」
由来は即答えた。
スッ
承太郎は由来の右手を取り、彼女のペースに合わせてゆっくり階段を下りた。
病院の階段は患者向けになっているため、緩やかな造りになっているが、彼女は片目だから物との距離を取りにくくなっている。
片目を傷つけられて、目を覚ましたばかりだから、これくらいの配慮は必要だと承太郎は思っていた。
(どういうことなんだ…)
承太郎は彼女の低体温を手のひらで感じながら、ゆっくり階段を下り、そして
・・・・・・・
あの夢のことを思い返していた。
日本を経つ前に見た、不思議な夢。由来が瀕死の重傷を負った姿だ。
(コイツが片目を失明したなら、それが
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未来のものだという辻褄が合わねえ)
あの夢では、ちゃんと
・・・・・・・・・・・・
両の目ん玉が揃っていたぜ。
となると、それは未来ではない。
(まさか、
・・・・・・・・
過去の出来事だと?)
だがそれだと、心臓ごと左肩をえぐられたあの傷との辻褄も合わなくなる。