第11章 そんな言葉じゃあない
「え?」
「お前は謝りがちだが、何度も謝られてもこっちは別にいい気分はしねえ」
つまりどういうこと?
「もしお前が俺に恩を感じているなら、俺がお前の役に立ったなら、もっと違う言葉がいいんじゃあねえか」
違う言葉……あ。
感謝を伝える言葉。さっきインディラも言った。
「あ、ありがとう……」
由来は何だかその言葉が新鮮に思えた。
感謝をするということは、相手が自分にしてくれた苦労が報われたと認めることであるから。
由来は相手に苦労させてまで自分が助かろうとは望んでいなく、相手に手を煩わせたと謝るばかりでいた。いままでは。
だから、「ありがとう」と言うことはなかった。
承太郎はその言葉が聞けて満足したのか、それ以上何も言うことなく、外へ通じる通路を進んだ。
由来は右目の眼帯に触れた。
(私は、再び死ぬはずだった……目に弾丸を打ち込まれて)
撃たれたとき、死を覚悟した。でも意識を取り戻し、私は崖にぶら下がっていた。
承太郎が手を掴んで助けてくれたんだ。
SW財団の医師は、弾丸は脳を貫通せず眼球内で食い止められたことを“奇跡”だと言っていたけど、そうじゃあなかった。
(あの一瞬、はっきり見たんだ。
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ホワイトシャドウが急に現れたのを)
暴走なんかじゃあない。もう私には分かる。
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承太郎が教えてくれたから。
(あのとき、ホワイトシャドウが私の眼球内の水分ごと凍らせて、弾丸の衝撃を消し止めてくれたんだ)
承太郎の言った通りだった。
ホワイトシャドウが私の意志とは関係なく姿を現すのは、決まって私が危機に瀕しているとき。
ホワイトシャドウは悪霊でも、ましてや私や私の周りの人間を脅かす化け物なんかじゃあなかった。
私のそばにいてくれて守ってくれる、守護霊だった。
コントロールできなくて怖かったんじゃあない。怖かったから、コントロールできなかったんだ。
(それだけじゃあないね…承太郎)
承太郎のスタープラチナは、タロットカードで“星”の暗示を持つスタンド。
願い行動すれば明るい未来が訪れる幸運のカード。
死ぬ運命だった私の未来を大きく変えてくれた。
星のように輝いた未来へ導いてくれる。
だから、あなたが私を導いてくれたんだね。