第11章 そんな言葉じゃあない
「おまえも感じたな?見られた感触を」
「う、うん……」
「……日本から飛行機に乗ったときにも、一度同じ感覚があった。間違いねえ。奴だ」
承太郎はさっきの穏やかな表情から転じて、厳しい顔になっていた。
その様子を見て、由来も何となく気付いた。
さっきの凍り付くような視線。恐らく……
「DIOか…」
「……俺だけでなく、てめえを監視してたってわけか」
やっぱり。
「さっきの会話も盗み聞きされていた可能性がある。もうこれ以上話すことは止めた方が良さそうだな」
「……そうだね。じゃあ早く…」
ゴンッ
「いて…」
「!?」
由来は病室のドアから出るつもりが、ドアにぶつかってしまった。
それもかなり痛かったらしく、おでこのあたりを抑えてうずくまった。
(イタタ……)
「おい。大丈夫か?」
承太郎に声をかけられても、由来はなかなか顔を上げなかった。
それは、痛いからではなく別の理由があった。
カァァ
(は、恥ずかしい……)
右目が塞がったことで視界が狭くなったから、ドアにぶつかってしまった。
まさかこんなとこで不便が生じるとは。
しかもぶつかった音、かなり大きかった。
(ドジだと思われてないかな?)
「フッ」
え?
顔を上げると承太郎がなぜかそっぽ向いていて、顔が見えない。
「今、鼻で笑った?」
「………笑ってねえ」
嘘だ。今、間を空けたじゃあないか。
「早く行くぞ」
承太郎が病室のドアを開けて、由来は外へ出た。
(ああ…今のところもDIOに見られていたらと思うと……)
「行くぞ」
由来は承太郎の背中についていった。
病院には気絶したまま入ったから、どこが出口なのか分からない、彼には道案内を頼んだ。
(……大きな背中だな)
この人には色々と迷惑をかけたな。
私は目を覚ましたとき、脚の銃弾以外何の傷もなかった。
つまり私が死んでいた間、この人が守ってくれたんだ。
そんなことを思っていたら、私は自然と心の声を漏らした。
「ごめん。迷惑かけて」
すると承太郎は振り向くことなく、一言発した。
「そんな言葉じゃあない」