第11章 そんな言葉じゃあない
地元ではジョジョという愛称で周りに呼ばれていた。
うっとうしいのが嫌いなこの人は、馴れ馴れしくあだ名で呼ばれて、正直どう思っている?
「……うっとうしいのは嫌いだが、別に名前を呼ばれる程度どうでもいい。何てあだ名をつけられようとな」
なるほど。あえて気にしないのか。
恐らく、喧嘩が強いと他の男子にも羨望のまなざしを向けられ、あだ名で呼ばれているのか。
(……この由来って名前は、唯一の母とのつながりみたいなもので。本当の名前だから…大事にしている)
母親を大事にしている承太郎に、私の母のことについては詳しくはいえない。
・・・・
断じてあのことはいえないが、少なくとも……
「……あの戦いで承太郎も敵の言うことが聞こえたよね。「実の母親に殺されかけたくせに」って」
「!。……ああ」
敵は私にはっきりそう言った。
承太郎に聞こえてしまった以上、最低限のことは話さなければならない。
あんなことを聞いて気にならないわけがない。
承太郎がジョースターさんに席を外すよう頼んでまで話したいことは、そのことなんじゃないかと思っていたよ。
「……単刀直入にいえば、
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私も知らないんだ」
ん?知らないだと?
どういうことだ?
「私が物心ついたときには、母はそばにいなかったんだ。恐らく何らかの事情で私を手放した。だから、私が赤子のとき、実際母に何があったのかは知らない」
「……そうだったのか」
だから、
・・・・・・・・・・・・
亡くしたわけじゃなかったのか…
(物心ついたときから。名字も本当のものじゃあねえ。つまりこいつは今まで……)
由来は承太郎から目を逸らした。
私の存在を唯一証明できる名前。名字は全て偽りのもの。
何度も名字が変わって、自分の存在が削られる思いをしてきた。
自分の存在が何なのか、それですら薄れていく。
“あなた”がいれば、必ず“私”がいる。“私”がいれば、必ず“あなた”がいる。
でも私には、“あなた”という存在がなかった。
里親手当という金に目がくらんだ偽善者の名字など、無駄なものだった。
ただ一度だけ、信頼できる“あなた”がいた。名前も呼んでくれた。けどその人はもういない。