第11章 そんな言葉じゃあない
(い、いつの間に…)
もしかして、右目が使えなくなったから、右側の気配を感じ取りづらくなったのかな?
だから気付かなかったのか。
あと、すぐ隣に人がいるのは、全く慣れてないよ。
ついでに見られるのも全く慣れてないよ。
ジーッ
「外してみる?」
右耳の裏にかかっている眼帯の紐をずらそうとしたが、止められた。
「いやいい。傷はそんな他人に見せるもんじゃあねえ」
「……そう。見たがっているように見えたけど」
承太郎はしばらく彼女の腕を掴んだままで、何か確認をしていた。
「どうやら体温は戻ったようだな」
「……おかげさまでね」
私の体温を確認するためだ。
2年間、腕の呪いで痛かったのを、ずっと冷やして麻痺させていたからね。
でも承太郎のおかげで呪いは解けた。命も救われた。
(だが、まだ平常とは言えねえな…)
さっきホテルで触ったときは、冷凍庫から取り出した冷凍食品の袋みてーだったが、今はまだマシなだけ。
少なくとも、俺より断然低い。
これがコイツの平熱なのか?やはり本体に影響を及ぼすほどのスタンドってわけか。
承太郎は手を離した。
「脚の方はどうなんだ?」
「え?」
「かなりの出血だったはずだ。本当に歩けるのか?」
想定外だった。2人で話がしたいと言って、最初に傷のことを聞いてくるなんて。
(ああ、そうだったな……)
この人が優しいのは、もう知っていたことじゃあないか。
正直最初は、怖そうな印象があった。
近所に素行の悪い不良がいると、地元で噂をよく聞いていた。
そしてやけにルックスがよくて、女子によくモテるという噂も。
あの日の登校時、偶然助けたその人物が、噂の彼だとすぐに分かった。
(そんな人が、まさかこんな優しい言葉をかけるとは……)
噂をした周りの人間は、きっと承太郎の表面しか見ていなかったんだろう。
確かに表情が読みづらいけど、本当は周りの人が思うような悪い人じゃあないんだ。
この旅を通じて分かった気がする。
(噂なんてただの上辺の話。中身はどうなのかは実際交流しないと分からない、か)
この人、見た目で損するタイプだな。ルックスで女子にキャーキャー言われては、不良には目の敵にされて。
(以前はこんなこと思わなかっただろうな。この人を含めて皆のことをちゃんと仲間とは思ってなかったから…)