第10章 決着
“お前にとって母親など、憎む存在であっただろうに!!”
(……その通り…だ)
由来は虚ろな目をして、先ほど敵に言われたことを思い返した。
私にとって母親は、子に愛情注いでくれる存在ではなかった。
私は、私を切り捨てた実母を、ずっと憎んでいた。
一度も心を許したことはない。
そんな私が、他人の母親を助けるなんて、確かに滑稽なことだったな。
私は認めてもらえて嬉しかった。
でも最初から分かっていたことじゃあないか。
私は、彼らと共にいていい存在ではない。
大切な家族のための戦いなのに、私は自分の家族を疎ましく思っていた。
そんな私が……
「おい!由来」
「!」
承太郎の呼びかけで、由来はハッとなった。
「このままだとてめえを落としかねる。その血で俺の手ごと凍らせて固定しろ。それで引き上げる」
え?何だって?
承太郎は、できれば自分の肩に彼女を引き上げたいところだが、その分力をさらに加えれば、手が滑って彼女を落としかねなかった。
だから自分が掴んでいる手ごと凍らせることで、手錠のように絶対離れないようにするということだ。
「そ、そんなことすれば、あんたの手は……」
「てめえの腕もだろ。互い様だ。早くしろ」
そ、そんな……できない…
フルフル
由来は首を横に振った。
力加減を間違えれば、承太郎ごと凍らせかねない。
承太郎のおかげで、ホワイトシャドウを信じようと思えるようになった。
だけど、仲間に使うのは……
由来にとって、“家族”というのは、本当にかけ離れた存在であった。
孤児となった彼女を育ててくれる者は何度か現れたが、どれも長続きせず、彼女はたらい回しのようにされた。
幼い頃から由来は周りに冷気が、近付いてみると本当に背筋が凍るようだと。
周りの人間は、彼女を不気味がった。
その中に、彼女の実の母親も含まれていた。
(私の母親は、私のスタンドが原因で不幸になった…)
そのスタンドによる不幸の連鎖が続くのはごめんだ。
“私の力”(ホワイトシャドウ)で、傷つけるのは……
ズルリ
そうこうしているうちに、承太郎の手は由来の肘から手首まで滑ってしまった。