第10章 決着
ピクッ
「!」
握っている手が若干動いた。彼女は僅かながら、意識を取り戻した。
「由来!」
「ぐっ……!」
顔をしかめて、傷口をとても痛がっているようだった。
顔の右半分は流血でほとんど赤く染まっている。
早く引き上げて傷の応急処置をしなくては。
皮肉な話だ。
今までの戦いでも由来は頬にペンを刺されたり、ナイフが飛んで口を切ったりと、顔ばかりを傷つけられた。女の子なのに。
そして今回ばかりは本当に重傷だった。この後の旅に関わるほどの。
“な、何故だ……実の母親に見捨てられ、憎み、その人生でさえ呪われたお前が…何故親子の絆とやらを救うの…だ……?”
敵は体を氷付けにされて、満足に喋れる状態ではなかった。
そしてバランスを崩して、崖へと落ちてしまった。
お前にとって母など愛情ではなく憎悪しかない存在でしかない。
なのに何をそこまでお前を突き動かす?
家族で恵まれるジョースターも、お前からしたら羨望ではなく卑下すべき対象のはずだろう!
母という愛の形を知らず周りからの偏見で、歪んで成長した少女。
真っ直ぐではなく、周りからの圧力でバキバキに折られた歪な形。
そんな子供が、この先まともな人生を送れるわけがない。
そういう者たちを救うのが、DIO様という人間を超えた神になり得るお方。
そのご加護の元なら、今までの人生では想像できない快感を得ることができる。
それを自ら拒み続け、己を拒んできた社会の正しさを貫く。あまりに愚行だ。
なぜ楽にならない?なぜこの社会を憎まない?
なぜ、自分とは明らかに違うジョースターの元に身を置くのだ!
(ククク……俺を殺しておけば、失わずに済んだのになぁ。我が同志よ……)
このまま旅を続ければ、いずれお前は、その身もろとも、地獄に落ちるぜェ。覚悟…しろよ……同志よ…
ヒューゥン
承太郎と由来は、敵が底へ落ちていくのを眺めた。
敵は見えなくなり、今度こそ本当に決着がついた。
「……」
ズリ
「!」
承太郎が掴んでいる彼女の腕が滑った。
(マズい……)
由来は腕の手首の方に近い部分を怪我していて、そこからの出血が承太郎が掴んでいるところまで流れていた。
血で滑って腕が掴みにくくなってきたのだ。