第10章 決着
それでも由来は承太郎の手を凍らせることを拒んだ。
「承太郎!由来!!今助けるからなあ!!」
ジョセフはハーミットパープルをロープ代わりにして、承太郎が崖を掴んでいる方の手を固定しようとした。
「待てじじい」
「!」
承太郎はジョセフに言い、下にぶら下がっている由来に言い放った。
「お前がこのまま凍らせずに落ちるってんなら、俺もこのまま崖にしがみついている方の手を放すが、どうする?」
『!』
由来は面を食らった。
手を放すということは、自分もこのまま落ちるということだから。
(何じゃと?!うちの孫は何を言って……)
ハッ
ジョセフも元は頭がすごく冴えているため、状況を全て察した。
由来はとても優しい子だ。
他人を助ける優しい心を持っているが、自分が危険に遭ってるとしても助けを求めない。
血で滑っている手を凍らせて承太郎を傷付けてでも、自分が助かろうとはしないのじゃ。
人を傷つけるのを怖がる子だ。
だから承太郎は由来に駆け引きをした。しかもフックにかかっているバッグのように、崖からぶら下がっている状態で。
由来は承太郎に向けられた強い眼差しを前にすると、つい目を伏せてしまう。
(承太郎は嘘をついていない。マジな目をしている……)
このまま滑り落ちて承太郎も落ちるか、私の手首を掴んでいるその手を凍らせるか。
そんなの、もう決まってしまった。
「ッ!」
““白の陰影”(ホワイトシャドウ)”
シュゥ~ン
血を凍らせることで、承太郎の手と由来の手首を固定した。
承太郎はそのまま引き上げて、自分の左肩に担ぎ上げた。
瞬間氷を解除した。
そして、ジョセフのハーミットパープルを下ろしてもらい、それで崖を登った。
ボソッ
「やれやれ。無茶しやがって」
承太郎は肩にいる彼女に呟いた。
「その言葉そっくりそのまま返していいかな?」
まさか、凍らせなければ自決するなんて……
「!」
由来は承太郎の左首すじのところに、星のような形をした変わったアザを見つけた。
(あれ…?このアザ…どこかで……)
このとき彼女は曇った表情になったが、承太郎には見えなかった。