第9章 雪辱
首から血が滴り出てきた。
出方からして、恐らくやったのは静脈だった。
もし動脈をやっていたら、もっと勢いよく血が出るからだ。
敵は何が起こったのかさえ分からず、唖然としていた。
首にひんやりと冷たい感覚があった。
(そ、そんなばかな!由来は氷の能力を使うどころか満足に動けやしないはず。なのになぜだ!?)
しかもその氷は承太郎が拾ってきたもので、それを弾丸の形に精巧に作り上げたものなんて、敵が想像できるわけがない。
敵は首を抑えてその場でうずくまった。死んではいない。
動けばさらに出血がひどくなるから、恐らくもう動かないだろう。
ホッ
(よかった……承太郎、今まで相手を殺しかねないくらいの戦いを繰り広げてきたから、今回やりかねないと思ったけど…)
一度殺された相手だとしても、由来は殺しは好まない。
しかし、この訳の分からない敵は、何度も由来を殺しの同類と言った。
(一体本当に、誰と勘違いしているんだコイツらは…)
ズキンッ
「!!」
脚の空いた傷口とそこから流れ出る大量の血。
めまいがひどくなってきた。
「ぐっ……」
拳銃を握ることさえ辛くなって、手から滑り落とした。
(私も人のことがいえない。動けない……)
「……」
承太郎は苦しそうに這い蹲っている彼女を見てから、首を抑えて苦しそうにしている敵に近付いた。
本当は彼女の元に行き、その安否を確認したいところだったが、それよりも彼女を確実に治す方を取る。
スタスタ
背後にスタープラチナを出して拳を握っているから、敵の頭を再び叩いて由来のDISCを取り戻すのだろう。
(首の傷にギリギリ響かない程度に勘弁してやる)
本当は一刻も早く彼女のDISCを取り戻したいが、急がば回れを忘れず、転ばないために走らない。
「……られるわけには…」
「あ?」
「やられるわけには、いかねえんだよ!!」
ゴロゴロゴロゴロ
敵は立ち上がるのではなく、寝転んだ体勢から寝返りを何度もすることで移動を始めた。
承太郎は往生際が悪い敵に一発拳を放ったが、それよりも早く、敵はある場所に隠れた。
それは、
ボゴォンッ!!
「!」
敵がさっき作った、氷で作られた盾。“最強の盾”だった。