第9章 雪辱
しかし敵は弾をあっさり避けた。まるで最初から撃たれることを知ってたかのように。
「!」
「バーカァ。後ろから狙うなんざ定石中の定石!お前らの考えてることなんざお見通しなんだよ!」
男は警察官の姿でありながら、正義感とは程遠い邪悪な魂を持っているようなゲスな顔を承太郎に向けた。
ダァン!
承太郎はスタープラチナで敵に当たるよう精密射撃をまたしたが、敵のスタンドをすり抜けただけだった。
スタンドには、スタンド攻撃しか通用しない。ただの弾丸では、スタンドに通用しない。
「俺本体もこの氷の上でも素早い動きができるんだぜえ。お前ら人間と同じにされちゃあ滑稽だぜ」
承太郎は敵の不意打ちを取れなかったことを全く悔やむ様子はなく、むしろいつも以上に冷静だった。
(これで弾は残り二発だ。もうこれ以上は使えないねえ。
・・・・・・・・・・
時間稼ぎはこれだけだ……)
承太郎は脚から弾丸を抜く前、由来に言われたことをもう一度頭でリピートした。
『あなたはその拳銃の残り4発のうち、
・・・・・
2発だけを敵の足止めに使って。私が
・・・・・・・
あの場所へ行く時間稼ぎをしてほしい』
『足止めだと?』
『うん。恐らく敵は承太郎が不意打ちを狙ってくることに気付いて、弾丸を避けるかもしれない。だから敵に傷を負わせるのではなく、ただ私と敵の距離を開かせるための足止めだけでいいんだ』
そして彼女はまたこんなことも言った。
『あと、敵の挑発はうっとうしいけど気にしないで。いや、敵にはそうしてもらわないと困る。なぜなら、同級生と口げんかするときもそうだが、相手の悪いところを見つけてそれを自分なりの解釈で口に出すのは、かなり頭を使うだろう。それと同じ。敵は挑発するとき頭をよく使って、注意力が落ちて油断する。そして自分の身の安全が疎かになるはず』
由来の目の付け所は、承太郎も少し感心するほどのものだった。
しかし、承太郎は懸念するところがあった。
『俺は問題ないが、敵はお前を貶すことばかり言っている。むしろ気にするなと言う忠告は、お前に当てはまると思うが?』
『……』
由来は苦い顔をして、少し間を空けから口を開いた。
『…敵は恐らく私の記憶を覗いて、その過去の一部を知っているに違いない。だから敵の戯れ言には、真実も含まれている』